孫子の兵法

孫子
 言わずと知れた、最古にして最強の兵法、『孫子』。2500年も前の、中国春秋時代に呉の兵法家、孫武によって著された兵法をただ漢文の古典として読むのではなく、現代の企業経営や組織運営、ビジネス、仕事の仕方に置き換え、応用し、実践のための智恵として活用したい。これが孫子兵法家を名乗る私の使命感です。
 この孫子ブログ「経営風林火山」は、2500年もの間、洋の東西を問わず、評価され続けて来た珠玉の教え、孫子の兵法を21世紀に生きる智恵としてどう解釈すべきかを、その時々のトピックに絡めてお伝えするものであり、孫子兵法家、長尾一洋の独自解釈も思い切って盛り込んだブログです。
 長尾一洋オフィシャルサイトには、「ブログではない雑記」というものもあって、そちらではブログを書きたくないから雑記にしたと書いているのですが、その当時からはブログの位置づけも大きく変わり、SNSが全盛の今となっては、ブログだろうと雑記だろうと似たようなもので、あまりそこにこだわるのもどうかということで、こちらではブログとしております。そのため、雑記と同様に、コメントなどの機能はありません。お許しください。
 
孫子
GAFAと孫子兵法

2018-10-03

 Google、Apple、Facebook、Amazon――すなわちGAFAと呼ばれるIT業界の四騎士について書かれた本を読んだ。ニューヨーク大学スターン経営大学院のスコット・ギャロウェイ教授による本だ。

  GAFA

 話題になっているので読まれた方もいるだろう。GAFAがいかに世界を支配し、彼らは何をしようとしているのか、それに対して一般庶民はどうすべきかが書かれている。本書だけでなく、日経新聞を読んでいれば毎日のようにこのGAFAについて、またGAFAの中のそれぞれの会社についての記事を読むことになる。私は特にAmazonに興味があるから、Amazonについて書かれた本は結構読んでいたりする。GAFAが何を考えているのかを孫子兵法家として研究しているのだ。
 孫子は、

『用兵の法は、十なれば則ち之を囲む。五なれば則ち之を攻む。倍すれば則ち之を分かつ。敵すれば則ち能く之と戦う。少なければ則ち能く之を逃る。若かざれば則ち能く之を避く。故に、小敵の堅なるは大敵の擒なり。』

 と、説いている。戦うためには、まず敵と味方の兵力差を把握しなければならない。おいおい、GAFAと戦う気なのか?気は確かか?と突っ込まれそうだが、もちろん「若かざれば則ち能く之を避く」ことも有りであり、GAFAがナンボのもんじゃい!と無鉄砲に突撃しないように「小敵の堅なるは大敵の擒なり」という孫子の警告も忘れてはならない。
 だが、孫子兵法家たる者、そう易々と尻尾を巻いて逃げるようなことはしない。相手が如何に強大であろうとも、戦いようはあるからだ。それを導くのもまた孫子の兵法である。
 孫子は、

『上兵は謀を伐つ。其の次は交を伐つ。其の次は兵を伐つ。其の下は城を攻む。城を攻むるの法は已むを得ざるが為なり。』

 と、教えてくれている。最上の戦い方は、敵の謀略、策謀を読んで無力化することだと。そのためにはまずGAFAの謀略、戦略、思考を知らなければならない。間違ってもGAFAの城を攻めるようなことをしてはならない。GAFAが得意とし、強みとしている本丸に竹やりを持って突撃するようなことはしない。
 そして孫子は、戦わずして勝つ道もことを教えてくれている。

『百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。』

 スコット・ギャロウェイも書いているが、強大なGAFAとて永遠ではない。すでにFacebookあたりは綻びを見せ始めている。スコット・ギャロウェイはAppleへの評価が高いようだが、そのAppleも一時は潰れかかっていたくらいだ。たしかにその危機を乗り切って、スティーブ・ジョブズがすでにいないという点で弱みが少ないというのは当たっているかもしれない。
 私は孫子兵法家として、Amazonを一番警戒しているが、警戒すると同時に、『智将は務めて敵に食む』 べく、AmazonのサービスはAWSなどかなり利用している。
 さて、貴社でも、GAFAと戦うか逃げるかを孫子の兵法に照らして考えてみてはいかがだろうか。

孫子兵法でパワハラを考える

2018-09-03

 体操、レスリング、ボクシング、バドミントン・・・と枚挙に暇がないほどスポーツの世界でパワハラが報道されている。急に増えたわけではなく、むしろ体罰などは以前と比べて減っているだろうから、表沙汰にする、もしくは表沙汰になる数が増えているのだろう。指導者側の保身のために選手を陥れるかのような所業は論外だが、選手のことを思うが故につい指導が行き過ぎ、言葉も荒くなってしまうことはあるのではないかと思ったりもする。
 それと同じことはビジネスの世界でも起こっているし、それで萎縮してしまって本来必要な部下指導も忌避しようとする上司が目につくのは残念なことだ。
 問題は、指導された本人が「愛のムチ」と受け止めるか「理不尽なパワハラ」と受け止めるかということだが、同じ言動でも、指導者と選手、上司と部下との関係性で意味合いが変わってくるところが難しい。
 実は、こうした点でも、孫子の教えが参考になる。孫子は行軍篇で、

『諄諄間間として、徐に人に言る者は、衆を失うなり。数々賞する者は、窘しむなり。数々罰する者は、困るるなり。先に暴にして後に其の衆を畏るる者は、不精の至りなり。』

 と指摘している。
 「上官が優しく丁寧な口調で兵士に話しかけているのは、上官への信頼を失い、兵士たちの心が離れてしまっているからである。頻繁に褒賞を与えるのは、士気の低下に苦しんで行き詰っているのである。やたらに懲罰を与えるのは、兵士が疲れて命令に従わなくなっているのである。はじめは、粗暴に扱っておきながら、後になって兵士たちの離反や反抗を恐れているようでは、部下を使う配慮がないことこの上ない。」という意味だ。
 ここで面白いのは、優しく丁寧に部下に接したり褒めたりするのは、部下から上司への信頼の欠如の現れであり、上司が部下に罰を与えるのは、部下が上司の言うことを聞かないことへの上司側の焦りや恐れがあるからだという指摘だ。
 選手や部下に優しく接しているから良いわけではなく、ただ遠慮して言うべきことを言えなくなっているだけだとしたら何の意味もない。パワハラだと言われるのを恐れて、指導すべきことを指導できないなら、選手や部下の側にもマイナスだ。
 選手や部下が言うことを聞かないからと感情的になって言葉で脅し、場合によっては体罰を下すような指導者も何だか情けない。自分の感情をコントロールできず、暴言を吐いたりしておいて、後になって訴えられるのではないかとビビっているようでは話にならない。
 要は、表面的な言動よりもそもそもの関係性、信頼関係が出来ているのかどうかが重要なのであって、教科書的に「パワハラNGワード」などを覚えて、それを避けるだけといったテクニカルな対応では、それもまた見透かされて逆効果ということになるだろう。
 だから孫子は、こうも言っている。

『卒、未だ親附せざるに、而も之を罰すれば、則ち服せず。服せざれば則ち用い難きなり。卒、已に親附せるに、而も罰行われざれば、則ち用う可からざるなり。故に、之を合するに文を以てし、之を斉うるに武を以てす。是を必取と謂う。』

 「兵士たちがまだ将軍に対して親しみや忠誠心を持ってもいないのに、彼らを罰したりすれば、将軍の命令に従わなくなる。心服して命令に従ってくれなければ軍隊を統率することはできない。反対に、兵士たちが既に将軍に対して心服しているのに、厳正な処罰が行われないようであれば、軍隊としての用をなさない。だから、兵士たちの心をまとめるのに、思いやりをもって交わり、厳正な規律をもって接していくことが必要である。これを目標必達の方法と言うのだ。」という意味である。
 信頼関係もなく、指導者や上司に対して心服してもないのに、厳しい指導をしてしまってはパワハラ確定だ。だが、選手や部下が信頼して指導を求めてくれているのに、耳の痛い、シビアな指摘も出来ないようでは、やはり本物の指導者とは言えない。
 普段からの関係性が重要なわけだが、その時は関係が良くて受け入れていても、後に関係が崩れてしまって、遡って、「あの時も・・・」とやられる可能性もあるので、指導者や上司は気をつけておかなければならない。それなら「やっぱり、何も言わない方が良い」と考えてしまいそうになるが、2500年前の孫子の時代からこうした指摘があるということは、人を動かすためには避けて通れない課題だと腹をくくるしかないだろう。
 人の上に立ち、組織を動かす立場になったら、孫子の兵法を学ぼう。

2018-08-06

 FIFAワールドカップ2018ロシア大会が終わって1ヶ月が過ぎたが、遅ればせながら孫子兵法家として、日本代表の戦いっぷりについて触れておかないわけにはいかない。この間、西日本豪雨(平成30年7月豪雨)があったり、あまりに暑い日が続いて夏バテ気味だったりして、テンションが下がっていたのだが、8月に入ったことだし、気合を入れ直して行きたいと思う。
 さて、W杯ロシア大会の日本代表だが、なんと言っても直前の監督交代で、西野監督が急ごしらえの西野ジャパンをどう戦わせるのか、代表選考も含め興味深かった。「ビッグ3」と呼ばれる本田圭佑、香川真司、岡崎慎司を招集したことで「おっさんジャパン」という批判も受けたが、やはり大舞台での安定感、途中交代でも存在感を示せたのは良かったのではないか。
 そして、孫子兵法的に押さえておきたいのが、そのハリルホジッチの下では代表から外されそうになっていたベテランたちが「やるしかない」「西野監督の期待に応えるしかない」「この批判を覆してみせる」と覚悟を決めたであろうという点だ。結果として、グループリーグで最もFIFAランキングが低く、直前のゴタゴタもあって3戦全敗だろうという予想を覆し、1勝1敗1分で決勝トーナメント進出を勝ち取った。
 細かいゲーム内容は、1ヶ月も前のことなので置いておくとして、孫子兵法的にもう一点、3戦目のポーランド戦で0-1で負けていながらボールを回して時間を稼ぎをしたことの意味を考えたい。ここでの本当の負けは、予選リーグで敗退することだ。要するに、西野ジャパンは「(無理に)戦わずして勝った(決勝トーナメントに進んだ)」。敵はすべて格上であり、孫子の兵法を単純に当てはめれば、戦ってはならない。それではW杯に出るなということになるので、出場した以上は戦うしかないわけだが、無用な戦いをする必要はないし、予選リーグでは全勝を目指す必要もない。
 どうしても日本では「正々堂々と戦うべきだ」「負けてもいいから潔く」といった意見が優勢になるが、高校生の部活動ではあるまいし、「全力を尽くしたのだからそれでいい」なんて無責任なことは言っていられない。恰好悪くても、潔くなくても、目先では負けていても、決勝トーナメントに進むという勝利を得るにはどうするかをシビアに考えるべきである。西野監督は批判されることも覚悟の上で、時間稼ぎを指示したはずだ。
 案の定、批判された。だが、この批判も決勝トーナメントのベルギー戦で「やるしかない」と開き直るパワーとして利用できたのではないかと考える。「時間稼ぎまでして決勝トーナメントに残ったのだから、日本代表はそれに見合った力を持っていたと世界に示さなければならない」「卑怯なままで終わればただの卑怯者だが、そこで結果を残せばそれも一つの戦い方だったとなるだろう」という意識をチームにもたらしたということだ。
 孫子は、

『凡そ客たるの道は、深く入れば則ち専らにして、主人克たず。饒野に掠むれば、三軍も食に足る。謹み養いて労すること勿く、気を併わせ力を積み、兵を運らして計謀し、測る可からざるを為し、之を往く所無きに投ずれば、死すとも且つ北げず。死焉んぞ得ざらんや、士人力を尽くす。兵士は甚だしく陥れば則ち懼れず、往く所無ければ則ち固く、深く入れば則ち拘し、已むを得ざれば則ち闘う。』

 と説いた。背水の陣の元となった教えである。「敵国に侵攻する場合、敵地に深く入り込むほど自軍は結束して強化され、防衛する側は対抗できなくなる。肥沃な土地を掠奪すれば、全軍の食糧確保も充分となる。そこで兵士たちに配慮して休養を与え無駄な労力を使わせないようにし、士気を高めて戦力を蓄え、軍を移動させながら策謀を巡らせ、敵にも味方にもこちらの意図をつかめないようにしておいて、どこにも行き場のない状況に兵を投入すれば、死んでも敗走することはない。これでどうして死にもの狂いの覚悟が得られないことがあるだろうか。士卒はともに決死の覚悟で力を尽くすことになる。兵士たちは、あまりにも危険な状況に陥ると、もはや恐れなくなり、行き場がなくなれば覚悟も固まり、深く入り込めば手を取り合い一致団結し、戦うしかないとなれば、奮戦するものなのだ。」という意味だ。
 あれこれ考えていても仕方ない、ここまで来たら戦って勝つしかないという状況に兵士を追い込む。それが将軍(監督)の役割である。ここまで意識してポーランド戦での時間稼ぎを指示していたとしたら、西野監督はなかなかの孫子の使い手である。
 結果はご存知のように、あのベルギーを2点リードするところまで追い詰めながら、悔しい逆転負け。最後は地力の違いを見せつけられた感があったが、途中までは互角どころか、リードしていたくらいだから良く戦ったと言えるだろう。
 次の代表監督に決まった森保監督にも、孫子の兵法をしっかり研究しておいてもらいたい。格下の日本が格上の敵に勝つには、背水の陣で「やるしかない」状況に選手を追い込むしかないのだ。

重版決定!!感謝!

2018-06-04

 前回、孫子関連本の第8作として、「AIに振り回される社長 したたかに使う社長」(日経BP社)の発刊をご紹介したが、書店に並び始めてからおよそ3週間で重版(増刷)が決定した。これも偏に、孫子兵法家を応援してくださる皆様のおかげです。厚く御礼申し上げます。
 おかげさまで、本書を読んだ方から、講演のご依頼が来たり、寄稿のご依頼が来たりしているので、内容的にも御評価いただけているかと・・・。
 とはいえ、まだまだお読みいただいていない方も多いでしょうから、まだの方は是非、お近くの書店かネット書店で。表紙はこういうデザインです。

AIに振り回される社長 したたかに使う社長

 しかし、重版が決まったからと言って、喜んでばかりはいられない。これだけ毎日のようにAIだ、IoTだ、ロボットだ、自動運転だと新聞記事やテレビのニュースで騒がれているわけだから、重版しなかったら困るくらいであって、もっと売れても良いはずだ。「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」なんてすごく売れている。やはり戦いは相対的なもので、敵と味方の両方をつかんでおく必要がある。
 孫子の定番、

『彼を知り己を知らば、百戦殆うからず。彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし。』

である。己の本が重版されたというだけで手放しで喜んでいては、「彼を知らずして己を知る」程度の話であって、一勝一負がせいぜいだ。
 さらに、

『彼を知り己を知らば、勝、乃ち殆うからず。地を知り天を知らば、勝、乃ち全うす可しと。』

を考えておかなければならない。敵と味方の相対比較だけではなく、地を知り天を知ることが必要になる。地とは競合とのポジショニング、天とは時流、トレンドだ。AIやIoTなど最新テクノロジーについてのトレンドは共通でも、それぞれの本のポジショニングが違う。当然、孫子兵法家の本は、企業経営に孫子兵法を応用するものであり、他のAI関連本と一緒にされては困る。だが、それがうまく伝わっているかどうか・・・。読んでくれたら分かるだろうが、読む前に分からなければそもそも読んでもらえない。
 反対に、これはAI関連本ではありません、他のAI本とは違うと言い過ぎても、今度はAIの時流にうまく乗れなくなる。「なんだよ、孫子かよ。最新の話が知りたいのに紀元前の話をするなよ」と言われてしまっては、これまた読んでもらえない。
 そこで、「歴史と古典に学ぶ最新テクノロジーの活かし方」というタイトルのセミナーを行うことにした。特別講師として、歴史小説家として有名な伊東潤先生をお招きし、基調講演「戦国と幕末のイノベーター 織田信長と鍋島閑叟」をお願いした。
 なぜ歴史や古典と最新のテクノロジーの話がつながるのかということが、このセミナーで解き明かされることになるだろう。日本IBMをはじめ外資系IT企業で最新テクノロジーを扱った経験を持つ歴史小説家、伊東潤先生だからこそ語れるテクノロジー活用の本質論だ。
 織田信長は言うまでもなく、鍋島閑叟(なべしまかんそう)の話にもご期待いただきたい。鍋島閑叟は、肥前佐賀藩主鍋島家の10代目。殖産興業や軍備の強化につとめ、公武合体を推進した維新の立役者の一人である。伊東先生の講演内容は、
 戦国武将は新しいテクノロジーをどう活かしたか
 長篠合戦の真相
 信長の夢と光秀の見ていた現実
 本能寺の変の真相(初公開最新説)
 幕末のイノベーター 鍋島閑叟
 IBMでの経験から言えること  他
となっている。
 もちろん、第二部では、孫子兵法家、長尾一洋がお話しさせていただく。歴史や古典から最新テクノロジーにどう向き合えば良いのかを学べる貴重な時間となるはずだ。乞うご期待。

AIも孫子兵法?

2018-04-23

 これも孫子兵法家による孫子本である。孫子の兵法を21世紀の企業経営に応用する。これが孫子兵法家のミッションであり役割なのだが、まさにそれ。そのための本が、「AIに振り回される社長 したたかに使う社長」(日経BP社)である。本のタイトルに孫子とは書いてないじゃないか、孫子がAIなんて語るわけないだろ、と突っ込みたい人もいるだろうが、文句は本書を読んでから言ってもらいたい。読めば分かる。
 もちろん、紀元前500年にいくら孫子がすごくてもAIについて直接語っているわけではない。だが、AIやIoTを活用して実現すべき「フィードフォワード」については間違いなく語っていて、2500年前の孫子の言葉をそのまま現代の企業経営に当てはめたら「フィードフォワード経営」になったと言っても過言ではない。「本当かな?」と思う人は、是非読んでみて欲しい。
 表紙はこんな感じだ。

AIに振り回される社長 したたかに使う社長

 ちょっとタイトルは長い気がするが、装丁のデザインはなかなか気に入っている。AIやIoT、ビッグデータなどに翻弄され振り回される社長や企業と、それらの最新テクノロジーをしたたかに使いこなす社長や企業との対比が本書のコンセプトだ。それをよく表した表紙になっているのではないだろうか。
 書名には孫子は入っていないが、第6章では直接、孫子兵法についても触れている。紛れもなく、「孫子の兵法で勝つ仕事えらび!!」(集英社)に続く、孫子兵法家、長尾一洋による孫子関連本の第8作である。
 孫子は、

『明主・賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出づる所以の者は「先知」なり。』

 と説いた。先に知り、先に情報をつかむことが成功の秘訣なのだ。
 そして、

『未だ戦わずして廟算するに、勝つ者は算を得ること多きなり。未だ戦わずして廟算するに、勝たざる者は算を得ること少なきなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。』

 と、事前に「廟算」すべきであると教えてくれている。これを先に知り先に考える「先知先考管理」と呼ぶ。さらにそれによって先手を打つ。

『勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む。』

 というわけだ。こうした孫子の兵法を現代の企業経営に当てはめると「フィードフォワード経営」となり、それを実践する最新の武器がAIやIoTということになるのだ。
 死んだ兵士や滅んだ国は生き返ることはない。済んだこと、過ぎ去った過去を振り返って「フィードバック」しても時すでに遅し。そうではなくこれから先の戦いに備えて先手を打つ「フィードフォワード」が必要なのであり、命がけの戦いを制する孫子の兵法の真髄なのだ。是非、本書をお読みいただきたい。

宮原知子と孫子兵法

2018-03-05

 平昌五輪の女子フィギュアスケートで4位入賞した宮原知子選手は、孫子の兵法を愛読しているという。1998年生まれの若い女性が孫子を愛読しているとは!! 孫子兵法家としては大変嬉しいことである。
 だが、孫子の兵法をフィギュアに活かしているなら、オリンピックでメダルくらい獲れよと突っ込みたくなる人もいるだろう。4位だったということは孫子の兵法に価値がないのではないかと疑いたくなる人もいるかもしれない。
 だが、そもそも孫子の兵法は戦争の書であって、フィギュアスケートの書ではないのだから、孫子の兵法を読んだからと言ってオリンピックでメダルを獲らないとおかしいなどと突っ込む方がおかしい。4位と言っても学校で4位なのでも、県大会で4位なのでもない。世界の4位だ。素晴らしい成績だ。
 おまけにショートプログラムもフリーも自己ベスト。日本の歴代最高得点をマーク。銀メダリストの浅田真央選手よりも、金メダリストの荒川静香選手よりも、得点は上ということを忘れてはならない。失礼ながら小柄で華はないが、ニックネームは「ミス・パーフェクト」。ミスがなくて確実。すなわち守りが堅いスケートである。
 孫子は、

『昔の善く戦う者は、先ず勝つ可からざるを為して、以て敵の勝つ可きを待つ。勝つ可からざるは己に在り、勝つ可きは敵に在り。』

 戦いに巧みな者は、まず敵が自軍を攻撃しても勝てないようにしておいてから、敵が弱点を露呈し、自軍が攻撃すれば勝てるようになるのを待ち受けたものである。負けないようにすることは自分自身によってできることだが、自軍が敵に勝つかどうかは敵軍によって決まることであると言うのだ。
 ミスをして自滅してはいけない。予定した演技を確実にこなす。それを宮原選手は初のオリンピックでやり切って自己ベスト、日本歴代最高記録を叩き出した。そこまでは自分自身でできる。しかし、それで勝つかどうかは敵次第。今回は彗星の如く現れたアリーナ・ザギトワの出来が良すぎた。
 そこで孫子は続けて、

『能く勝つ可からざるを為すも、敵をして勝つ可からしむること能わず。故に曰く、勝は知る可くして、為す可からずと。』

敵にやられないように(ミスしないように)は出来ても、敵に負けさせるように(ミスさせるように)は出来ない。こちらがどれだけ完璧であっても、敵がそれ以上であれば、勝てないことがあると言うのだ。
 実は、宮原選手の戦い方は、孫子の兵法そのものだった。ライバルと自分との力を見極め、自分の力をパーフェクトに出し切った。ザギトワがいなければ銅メダルだったし、さらにケイトリン・オズモンドがミスしていれば、メドベージェワがいても銀だった。
 オリンピックだからメダルを獲らなければならないと気負って、ミスしてしまっては孫子の兵法を学んだ価値はなかったが、彼女は孫子の教え通り、勝ちに行かずに負けない戦いをした。
 孫子は、

『善く戦う者は、不敗の地に立ちて、敵の敗を失わざるなり。』

 と言って、負けない態勢をとっておいて、敵のミスを見逃すなと説いた。まさに宮原選手の戦い方である。今回の平昌は、敵がアッパレだった。その勢いに飲まれずに初のオリンピックで負けない戦いが出来た宮原選手は、孫子の兵法の使い手と言ってよいだろう。4位入賞おめでとう。さすが孫子の兵法を学んだだけのことはある。

千里なるも戦うべし

2018-01-30

 先日、ロボットが接客をするという「変なホテル」に泊まった。「初めてロボットがスタッフとして働いたホテル」として、ギネスにも登録されたというから、どんなに凄いのかと期待が膨らみ過ぎたのがいけなかったかもしれない・・・。
 こんな感じで、恐竜ロボットに出迎えられた。



 フロントにも恐竜ロボットがいて、多言語対応してくれるそうだ。外国人には良いのかもしれないが、日本語を話す人間にはあまりメリットなし。などと、「変なホテル」にケチをつけたいわけではない。むしろこうしたチャレンジングな取り組みを称賛したい。
 AIだ、ロボットだ、と言っても面白がる人ばかりではないだろうし、クレームも結構あるだろう。だが、近い将来、遅くとも10年、20年先にはこうしたロボットホテルが受け容れられるだろうし、必要とされるだろうと考えて取り組んでおられるのだろう。さすがHIS。今からやっておくからノウハウも貯まるだろうし、ロボット技術を持った人たちも集まって来るだろう。
 孫子は、

『戦いの地を知り、戦いの日を知らば、千里なるも戦うべし。戦いの地を知らず、戦いの日を知らざれば、左は右を救うこと能わず、右は左を救うこと能わず、前は後を救うこと能わず、後は前を救うこと能わず。』

 と説いた。戦闘地点も分かっており、戦闘開始の時期も分かっているなら、それが千里も離れた遠方であっても主導権を持って戦うことができる。千里なるも戦うべし。AIやロボット領域が戦場であり、時期としては5年から10年後、となったら多少先のことにはなるけれども、主導、先行してその戦場に向けて出発すべしだ。HISとしては、実績もノウハウもある旅行、宿泊、観光という領域とも絡む戦場だ。自社の強みも活かせて、時流にも乗っていける戦場を先回りして確保している感じだろう。
 それがビジョンとして示され、社内でコンセンサスを得ているから、今は苦労があっても、社員、スタッフがついてくる。まさに、孫子の兵法をビジネスで実践していると言える事例だ。ご苦労もあるだろうが、ホテルも増やしているようだし、是非頑張っていただきたい。
 孫子兵法家である私も負けずに、長期ビジョンを持ってチャレンジングに取り組んでいかねばと改めて思った。千里なるも戦うべし。

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