孫子の兵法

孫子
 兵法の中の兵法、『孫子』は、最古にして最強と言われる兵法書である。
 今から2500年ほど前、中国春秋時代の斉の国に生まれ、呉の国王に仕えた兵法家、孫武が著したとされる。孫武が実在したのか、本当に孫武の著作なのか、という議論があるが、ここでは、そんなことは気にしないでおこう。
 孫子の内容に価値があれば、それでいい。誰が書いていたとしても、その活用にはあまり関係がない。
 孫子は、計篇、作戦篇、謀攻篇、形篇、勢篇、虚実篇、軍争篇、九変篇、行軍篇、地形篇、九地篇、用間篇、火攻篇の十三篇から成る、比較的短文の古典である。司馬遷(前145-前86)の史記には、兵法書として広く読まれていたという記述があり、三国志で有名な魏の曹操も孫子の注釈書を残しているくらいだから、2000年以上に渡って高い評価を得てきたものであることは間違いない。
 日本では、戦国時代に甲斐の武田信玄が孫子の一節から引用した「風林火山」の旗印を使っていたことが有名だ。元を辿れば、八世紀には吉備真備が唐から孫子を持ち帰ったとされる。
 さらに孫子は、中国や日本のみならず西洋にも影響を与えていて、ナポレオンが孫子を愛読していたことはよく知られているし、近代では米国のペンタゴンでも孫子の研究が行われるなど、洋の東西、時代を超えて、軍事や組織統率、人間洞察における参考書として重用されてきた。それも、孫子の中身に相応の価値がある証拠であろう。
 この2500年も前の、古臭い古典を現代の企業経営に活かすべきだ。数多の時代の変化を乗り越え、伝えられてきた、その智恵と叡智には学ぶべきヒントがたくさんある。
 今まさに、時代が大きく変わろうとしている中で、時代の変化に左右されない孫子の智恵が求められている。
 私は、孫子兵法家として、企業経営に孫子兵法を応用し、企業を勝利に導く。厳しい時代を勝ち抜く強い企業体質、経営体質を創り上げる。
孫子
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兵学者と兵法家

 孫子の兵法に価値があることは分かった。
 だが、それを現代の企業経営に活かすと言うお前はいったい何者なのか、と疑問を持つ方もいるだろう。
 私は、2500年前の孫子の兵法を現代の企業経営に当てはめ、応用し、成果を出す『兵法家』(経営コンサルタント)である。決して中国古典や兵法を専門に研究する『兵学者』ではない。この点は先に断っておかなければならない。
 兵学者と兵法家の違いについて、海音寺潮五郎氏の小説「孫子」の中に、こんな一節がある。少し引用させていただく。

「兵学者とは古来の兵法をよく誦んじ、古今の戦史をよく知り、兵制の変遷などを研究している者です。しかし、単にそれだけの人々です。兵法家は、機に臨み、変に応じて、最も適当した戦術の案出が出来るなら、古人の兵法など知らんでもよいのです。もちろん、古人の兵法を知っていてもよろしい、古今の戦史に通じていてもかまわない。ただ、それを実際に応用するにあたっては、独自の機略をもって自在の運用をしなければならないのです。それが兵法家です。」

 この一節を読んで、私は孫子の兵法を語らせていただくための自信を持った。漢文など読めないし、古代中国の戦史など興味もない私が、孫子について語ることができるのは、その臨機応変の応用であり、現代企業経営への適用ができるからだ。
 これについてはそれなりに自信がある。
 これまで30年以上に渡り、経営コンサルタントとして、15,000社を超える企業とお付き合いをしてきた。そのうちの30年(1991年3月設立)は実践経営者として自ら会社経営も行ってきた。それらの企業現場、経営課題解決に孫子の兵法を応用、適用してきたことについては、誰にも負けない、と思う。
 2004年には、孫子の兵法を営業力強化とIT活用に応用した「必勝の営業術55のポイント」(中央経済社)という本も書き、2010年には、孫子の兵法を企業経営にどう活かすかを69のポイントにまとめた「孫子の兵法経営戦略」(明日香出版社)という本も書いた。そして2014年には、孫子の兵法をビジネスに応用する具体的なイメージが湧くように「まんがで身につく 孫子の兵法」(あさ出版)という本でマンガ化もした。さらに2015年には、「仕事で大切なことは孫子の兵法がぜんぶ教えてくれる」(KADOKAWA)という本も書いた。加えて2016年には、ヤングジャンプに連載されて大人気となっている漫画『キングダム』と孫子兵法家とのコラボで、「キングダムで学ぶ乱世のリーダーシップ」(集英社)という本も書いた。春秋戦国時代を終わらせた秦の始皇帝が登場する漫画には孫子の兵法がちりばめられて、それを題材にリーダーシップについて考えることもできる。さらに加えて、「マンガでわかる! 孫子式 戦略思考」(宝島社)という本で再度マンガ化に挑戦。戦略思考という切り口で孫子の兵法を現代のビジネスに活かす手法を紹介した。そして2017年には、孫子の兵法を高校生や大学生や若いビジネスマンが就職活動や転職、はたまた起業にどう活かすべきなのかを「孫子の兵法で勝つ仕事えらび!!」(集英社)で解説した。
 2019年には監修だが、「孫子の兵法 見るだけノート」(宝島社)」でイラストで孫子の兵法を解説する挑戦に加わり、2020年には、なんと小学生向けの孫子解説本「まんがで名作 孫子の兵法」(KADOKAWA)も監修して孫子の裾野を広げた。
 ちなみに、2019年9月から2023年3月まで、文化放送のラジオ番組「長尾一洋 孫子であきない話」「ラジオde経営塾」のパーソナリティとして孫子の兵法をビジネスに応用する話を毎週リスナーの皆様にお届けした。古典の孫子を単に解説するわけではなく、時事問題やゲスト出演者の話に合わせて孫子の兵法を語り、リスナーからの質問に答えて来たわけだ。
 こうした孫子兵法のビジネスへの応用実践や応用解説は、決して付け焼刃ではない自信がある。
 しかし、そもそもの原典解読についてはあまり自信がないから、孫子の研究をされている諸先生方の書かれた本を参考にさせていただいた。それら兵学者の先生がおられたからこそ、「兵法家なのだ」と偉そうなことが言える。感謝申し上げる。


「孫子」 浅野裕一著 講談社学術文庫
「新訂 孫子」 金谷 治著 岩波文庫
「戦略体系① 孫子」 杉之尾宜生著 芙蓉書房出版
「孫子」 海音寺潮五郎著 毎日新聞社

 最古にして最強の兵法を現代の企業経営に活かすのが本サイトの目的だ。
なにしろ、2500年も前の話だから、そのまま現代語に訳しただけでは意味がない。だから、全文の現代語訳をしつつ、軍事の解説ではなく経営の解説に大きく意訳した経営兵法解釈を施した。
 大切なことは古典を正しく学ぶことではなく、孫子の智恵を正しく実践、応用し、成果を出すことだと考えるからだ。成果の出ない努力など「時間の無駄」「骨折り損」だと孫子自身が言っている。
 孫子の兵法は、企業経営にかなりの部分で参考にできる。それは、人間が極限の状態に置かれる戦争(命の取り合い)という現実をどう生き抜くかという智恵だからだ。商業出版など2500年前には存在しないのだから、金儲けのために書き残すわけではない。大学の研究者が理論や理屈をまとめるわけでもない。命の取り合いで失敗しないために書かれた究極の(命がけの)教えである。
 人間が、勝つか負けるかを争い、負ければ死ぬ(倒産する・クビになる)という状態に置かれた時に、どうなるか、どう動くか、どう動くべきか、という孫子の教え、孫子の兵法は、現代のビジネス戦争においても当然有効であり、応用できるものなのだ。
 そしてこの孫子の兵法、孫子の智恵が、2500年もの時代の変化、環境の変化を超えてずっと評価されてきた教えであるということが重要である。21世紀は西洋文明から東洋文明への転換期であるとも言われるし、先進国は人口減少に転じ、地球環境や資源の限界もあって、先が見えない。こういう時こそ、時代の変化を超えてきた孫子の智恵に立ち帰ってみる価値がある。
 今こそ、孫子の兵法に原点回帰するのだ。もちろん、2500年前の具体的な教えをそのまま使おうと思っても現実に適用するのは難しいこともある。何しろ本当の戦争をする訳でもない。だから、孫子(孫武のと言ってもいいが)の心になり、頭になり、目となって、21世紀の企業経営を見て、考えて、感じるところを実践することになる。それが孫子兵法家としての孫子への接し方だ。
 孫子の原文をそのまま読み込んで、自分で応用、適用できる人はすればよろしい。本サイトをそのヒントにしていただければ幸いである。だが、古典である孫子そのままを読んでも、「ふんふん、なるほど、そんなことを言ったのね」で終わってしまい、なかなかそれを企業経営や自分の仕事に応用できない人も多いだろう。その場合は、孫子兵法家である私の「経営兵法解釈」を信じて、目の前の企業経営や仕事に活かして欲しい。きっとお役に立つはずだ。  

 本サイトで、孫子十三篇、全篇を読み下し、現代語訳して、そこに独自の経営兵法解釈を加えながら、孫子兵法の奥義、極意をご紹介する。是非参考にしていただきたい。

孫子兵法家 長尾一洋

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