孫子の兵法

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孫子×DX 個人のせいにしない

2024-07-29

 DX推進プロジェクトが動き出し、ようやく軌道に乗って勢いが出始めたかと思っていたら、あちらこちらで抵抗勢力が現れたりするものである。初めは高みの見物で、「どうせ失敗するだろう」「そのうち元に戻るだろう」と高を括っていたのかもしれないが、実際にDXが進み、自分たちの仕事のやり方が変わるとなったら、抵抗を始めるわけだ。
 「これは紙じゃないといけない」「前のやり方の方が慣れているから早い」「システムが使いにくい」「もっと分かりやすいものじゃないと使えない」などなど・・・。DXの推進を止めようと思えば、どうとでも言える。事実や論理ではなく、感覚の問題にすり替えるからだ。「どこが使いにくいのか言ってくれ」と問い質しても、「いや、何となく・・・」「見た目かな・・・」という程度の話だったりする。具体的な問題や瑕疵があるならそこを直せば良いだけだが、感覚的なことを言われても直しようがない。
 こんな抵抗をして来るのが、現場の社員だけでなく、管理者層、経営層の偉い(声の大きい)人だったりすることも多いからやっかいだ。ここまで進めて来て、DXの趣旨も理解し、その重要性や必要性についても理解はしているはずなのだから、上の人ほど、多少慣れない点、分かりにくい点があっても「慣れれば早くなるからまずはやってみよう」と社員を鼓舞し率先垂範してくれるべきなのだが、人間、そう立派な人ばかりではないというのが現実である。
 そんな時、孫子はどう考えるか。孫子の兵法では、個人のせいにしてはダメだぞと教えてくれている。

<勢 篇>
 『善く戦う者は、之を勢に求め、人に責めず。故に能く人を択びて勢に任ず。勢に任ずる者の、其の人を戦わしむるや、木石を転ずるが如し。』
◆現代語訳
 「戦いに巧みな指導者は、戦闘における勢いによって勝利を得ようとし、兵士の個人的な力に頼ろうとはしない。だから適切な人を選び出し、勢いを生むように人員配置ができるのだ。戦場での勢いを巧みに利用する指導者が、兵士たちを戦わせる様は、まるで木や石を坂道に転落させるようなものである。」
◆孫子DX解釈
⇒個々の抵抗勢力に向き合うのではなく、周囲の勢いでデジタル活用せざるを得ないようにせよ。

 「あの人のせいだ」「あいつがガンだ」と特定の個人を責めたり、「誰が抵抗しているのか」と犯人捜しをするのではなく、そもそもそんな抵抗や反対ができないような勢いを作るべきであり、抵抗されるのはその勢い作りが足りなかったのだと考えるべきなのだ。
 人間は変化に抵抗するものである。自分の存在が脅かされると感じるからだろう。戦争においてはまさに自分の生命が脅かされている。敵に突撃しろと言われても命惜しさに尻込みすることもあるだろう。そうした極限状態に置かれた時に人間の本性が現れる。それを踏まえた孫子の兵法は、人間なんてそんなものなのだから、それを前提にして勢いを作るのだと説いたわけだ。
 逆に、人間は勢いに乗る、波に乗ることがある。一人では出来ないことも組織が団結するとより一層力を発揮し、自分だけの都合ではそこから離れられなくなるといった特性も持つ。勢いに乗って、個々人が持てる能力以上のものを発揮し、さらに勢いを増すことが出来れば、それまで渋っていたような抵抗勢力もやるしかなくなり、流れに乗ろうとするものである。それがその本人の生存のために有利だからだ。
 その様を孫子は、まるで木や石を坂道で転がすようなものだと表現した。木には丸太もあるが枝が張った木もある。石には丸い石もあるが角張ったり平たい石もある。土石流を考えれば分かるだろうが、木や石が勢いよく流れだせば、枝が張っていようが、角張っていようが関係なく流れて来る。だから土石流は怖いわけだが、木や石そのものが怖いのではなく、それを動かす勢いが怖いわけだ。
 これは、人間の組織でも同じこと。いろいろな考えの人がいるし、抵抗する人、後ろ向きな人もいる。その人たちが抵抗できないような勢いを生み出さなければならない。
 まずは、属人的な作業や業務はなくして、デジタルに置き換え、個々人に頼るウェイトを下げる。そして、ベテランが元気な内に、その経験知をシステム化、動画マニュアル化して、さらにAI活用することを考えよう。抵抗する人たちにこそ、そうしたデジタル転換を進めてもらおう。受け身にさせずに彼らの出番を作ることが重要だ。熟練の技を教えるヒーローにしよう。自分のやっている業務や作業がシステム化され、標準化され、AIが器用にこなすのを見れば、もはや抵抗しても仕方ないことに気付くだろう。
 どんなに馬に乗るのが上手な人でも、普段の移動には馬ではなく車を使うだろう。どんなにタイプライターを打つのが上手な人でも、今やタイプライターではなくワープロソフトを使うだろう。個人が抵抗しても抗うことのできない時代の流れがあるのだ。流れの勢いを増そう。

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