孫子の兵法

孫子
 言わずと知れた、最古にして最強の兵法、『孫子』。2500年も前の、中国春秋時代に呉の兵法家、孫武によって著された兵法をただ漢文の古典として読むのではなく、現代の企業経営や組織運営、ビジネス、仕事の仕方に置き換え、応用し、実践のための智恵として活用したい。これが孫子兵法家を名乗る私の使命感です。
 この孫子ブログ「経営風林火山」は、2500年もの間、洋の東西を問わず、評価され続けて来た珠玉の教え、孫子の兵法を21世紀に生きる智恵としてどう解釈すべきかを、その時々のトピックに絡めてお伝えするものであり、孫子兵法家、長尾一洋の独自解釈も思い切って盛り込んだブログです。
 長尾一洋オフィシャルサイトには、「ブログではない雑記」というものもあって、そちらではブログを書きたくないから雑記にしたと書いているのですが、その当時からはブログの位置づけも大きく変わり、SNSが全盛の今となっては、ブログだろうと雑記だろうと似たようなもので、あまりそこにこだわるのもどうかということで、こちらではブログとしております。そのため、雑記と同様に、コメントなどの機能はありません。お許しください。
 
孫子
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孫子×DX 個人のせいにしない

2024-07-29

 DX推進プロジェクトが動き出し、ようやく軌道に乗って勢いが出始めたかと思っていたら、あちらこちらで抵抗勢力が現れたりするものである。初めは高みの見物で、「どうせ失敗するだろう」「そのうち元に戻るだろう」と高を括っていたのかもしれないが、実際にDXが進み、自分たちの仕事のやり方が変わるとなったら、抵抗を始めるわけだ。
 「これは紙じゃないといけない」「前のやり方の方が慣れているから早い」「システムが使いにくい」「もっと分かりやすいものじゃないと使えない」などなど・・・。DXの推進を止めようと思えば、どうとでも言える。事実や論理ではなく、感覚の問題にすり替えるからだ。「どこが使いにくいのか言ってくれ」と問い質しても、「いや、何となく・・・」「見た目かな・・・」という程度の話だったりする。具体的な問題や瑕疵があるならそこを直せば良いだけだが、感覚的なことを言われても直しようがない。
 こんな抵抗をして来るのが、現場の社員だけでなく、管理者層、経営層の偉い(声の大きい)人だったりすることも多いからやっかいだ。ここまで進めて来て、DXの趣旨も理解し、その重要性や必要性についても理解はしているはずなのだから、上の人ほど、多少慣れない点、分かりにくい点があっても「慣れれば早くなるからまずはやってみよう」と社員を鼓舞し率先垂範してくれるべきなのだが、人間、そう立派な人ばかりではないというのが現実である。
 そんな時、孫子はどう考えるか。孫子の兵法では、個人のせいにしてはダメだぞと教えてくれている。

<勢 篇>
 『善く戦う者は、之を勢に求め、人に責めず。故に能く人を択びて勢に任ず。勢に任ずる者の、其の人を戦わしむるや、木石を転ずるが如し。』
◆現代語訳
 「戦いに巧みな指導者は、戦闘における勢いによって勝利を得ようとし、兵士の個人的な力に頼ろうとはしない。だから適切な人を選び出し、勢いを生むように人員配置ができるのだ。戦場での勢いを巧みに利用する指導者が、兵士たちを戦わせる様は、まるで木や石を坂道に転落させるようなものである。」
◆孫子DX解釈
⇒個々の抵抗勢力に向き合うのではなく、周囲の勢いでデジタル活用せざるを得ないようにせよ。

 「あの人のせいだ」「あいつがガンだ」と特定の個人を責めたり、「誰が抵抗しているのか」と犯人捜しをするのではなく、そもそもそんな抵抗や反対ができないような勢いを作るべきであり、抵抗されるのはその勢い作りが足りなかったのだと考えるべきなのだ。
 人間は変化に抵抗するものである。自分の存在が脅かされると感じるからだろう。戦争においてはまさに自分の生命が脅かされている。敵に突撃しろと言われても命惜しさに尻込みすることもあるだろう。そうした極限状態に置かれた時に人間の本性が現れる。それを踏まえた孫子の兵法は、人間なんてそんなものなのだから、それを前提にして勢いを作るのだと説いたわけだ。
 逆に、人間は勢いに乗る、波に乗ることがある。一人では出来ないことも組織が団結するとより一層力を発揮し、自分だけの都合ではそこから離れられなくなるといった特性も持つ。勢いに乗って、個々人が持てる能力以上のものを発揮し、さらに勢いを増すことが出来れば、それまで渋っていたような抵抗勢力もやるしかなくなり、流れに乗ろうとするものである。それがその本人の生存のために有利だからだ。
 その様を孫子は、まるで木や石を坂道で転がすようなものだと表現した。木には丸太もあるが枝が張った木もある。石には丸い石もあるが角張ったり平たい石もある。土石流を考えれば分かるだろうが、木や石が勢いよく流れだせば、枝が張っていようが、角張っていようが関係なく流れて来る。だから土石流は怖いわけだが、木や石そのものが怖いのではなく、それを動かす勢いが怖いわけだ。
 これは、人間の組織でも同じこと。いろいろな考えの人がいるし、抵抗する人、後ろ向きな人もいる。その人たちが抵抗できないような勢いを生み出さなければならない。
 まずは、属人的な作業や業務はなくして、デジタルに置き換え、個々人に頼るウェイトを下げる。そして、ベテランが元気な内に、その経験知をシステム化、動画マニュアル化して、さらにAI活用することを考えよう。抵抗する人たちにこそ、そうしたデジタル転換を進めてもらおう。受け身にさせずに彼らの出番を作ることが重要だ。熟練の技を教えるヒーローにしよう。自分のやっている業務や作業がシステム化され、標準化され、AIが器用にこなすのを見れば、もはや抵抗しても仕方ないことに気付くだろう。
 どんなに馬に乗るのが上手な人でも、普段の移動には馬ではなく車を使うだろう。どんなにタイプライターを打つのが上手な人でも、今やタイプライターではなくワープロソフトを使うだろう。個人が抵抗しても抗うことのできない時代の流れがあるのだ。流れの勢いを増そう。

孫子×DX ダムを決壊させるタイミング

2024-06-13

 軍形篇の最後に「積水の計」でダムを作った。情報のダムであり顧客のダムだ。データを溜めて勢いを作り出すわけだが、孫子はまさに勢篇で積水で勢いを作り出す極意を伝授してくれている。

<勢 篇>
 『激水の疾くして、石を漂わすに至る者は勢なり。鷙鳥の撃ちて毀折に至る者は、節なり。是の故に善く戦う者は、其の勢は険にして、其の節は短なり。勢は弩を彍るが如く、節は機を発するが如し。』
◆現代語訳
 「水の流れが激しくて岩石をも漂わせるのは、その水に勢いがあるからである。猛禽が急降下して一撃で獲物を打ち砕くのは、絶妙のタイミングだからである。したがって戦上手は、その戦闘に投入する勢いを大きく険しくし、その勢いを放出するのは一瞬の間に集中させる。勢いを蓄えるのは弩(弓)の弦を一杯に引くようなものであり、節(タイミング)とは、その引き金を引く時のようなものである。」
◆孫子DX解釈
⇒勢いが有効に機能するかどうかはそのタイミングによる。一点集中で一挙に勢いを放出せよ。その制御をデジタルで行う。

 岩を動かそうとしてバケツの水をかけても岩はビクともしないが、豪雨時の濁流のように一気にまとまって流れてくると岩をも動かし、土石流となる。水が岩を動かすというよりも勢いが岩をも動かすということだ。積水の計とはその水のまとまりを作るためのものであり、勢篇で重要なのは後半の「節」の教えだ。「勢」をうまく機能させるためには、「節」がいる。要するにここぞというタイミングに勢いを集中させるということ。
 どんなに大きなダムがあって、そこに満々と水が溜まっていたとしても、ちょろちょろと水を流していたのでは積水の意味もない。一気にダムを決壊させなければ威力はない。そしてその威力が効果を発揮するためにはタイミングが必要である。
 DXに置き換えてみよう。DXにおいて大切なことは、単に情報を集めるのではなく、そこにタイミングを知るための情報を付加することである。分かりやすく言えば、顧客情報として、個人名や住所、電話番号、メールアドレスなどを収集しただけで満足してはいけないということ。そこに誕生日が加わるとどうなるか考えてみると分かるだろう。その顧客情報を使うタイミングが分かるようになる。
 まず、当り前だが誕生日の連絡。誕生日が分かれば何歳かが分かるから人生の節目イベントのタイミングも分かる。小学校入学、高校卒業、成人式・・・還暦祝いの連絡も入れられる。これが「節」を現代のビジネスに応用するポイントだ。データの期日管理をするということである。
 ビジネスには旬があり、書き入れ時がある。クリスマス商戦、年末年始、卒業入学シーズン、歓送迎会シーズン、決算期末があり期初があり、年度替わりがある。各企業には設立記念日や創業記念日があってそれに合わせて周年イベントが開催される。
 この旬、タイミングを逃したと考えてみよう。本当は来年卒業なのに、「ご卒業おめでとうございます」とDMを送ったとしたら? 去年還暦だったのに、「還暦祝い」を送ったとしたら? クリスマスを過ぎたのにクリスマスケーキを売り込むようなことになってしまうだろう。
 この「積水の計」による「勢」とタイミングを活かす「節」を現代の営業活動に応用した考え方が「ストラテジック・セールス」だ。顧客をダムに溜め、観覧車を回す。観覧車とは期日管理ができているデータベースのこと。その顧客に合わせて、絶好のタイミングで営業アプローチができる仕組みを構築する手法だ。
DXプロジェクトにおいても、この「ストラテジック・セールス」という考え方を取り入れて営業DXを推進しなければならない。それはダムを決壊させるタイミングを知るということであり、「勢」と「節」をコントロールするということである。

孫子×DX 新たな常識を作る

2024-06-05

 DXは、従来の業務を単にデジタル化、IT化するものではない。デジタルの力を使って、企業を変革(トランスフォーム)させ、新たなビジネスモデルを創出して行くことを目指したい。
 そのためには、従来の常識や業界の慣習に囚われていてはいけない。それらの常識や慣習を打ち破り、新たな常識(世の中)を作り出すことを目指そう。
 孫子は常識破りのことを「奇」と呼び、常識を「正」と呼んだ。そしてこの奇と正は循環しており、奇が正になり、正が奇になるのだと教えてくれている。

<勢 篇>
 『正を以て合い、奇を以て勝つ。故に、善く奇を出す者は窮まり無きこと天地の如く、竭きざること江河(河海)の如し。』
◆現代語訳
 「戦闘においては、正法によって相手と対峙し、奇法を用いて勝利を収めるものである。だから、奇法に通じた者の打つ手は天地のように無限であり、揚子江や黄河のように(大河や海のように)尽きることがない。」
◆孫子DX解釈
⇒業界の常識を打ち破る奇策をデジタルで実現せよ。奇策はやがて当たり前になり正攻法となる。するとかつての正攻法が奇策となり、奇正は環の端なきが如し。

 セブンイレブンが銀行を作ると言った時、ほとんどの人は「そんなことは無理だ」と言ったが、今やコンビニにATMがあるのは当り前になり、店舗すら持たないネット銀行まで現れている。
 ヤマト運輸が小口の荷物を翌日には届けると言った時、ほぼすべての人が「そんなことは無理だ」と言ったが、今や当日でも届くような配送サービスがある。
 セコムがガードマンを常駐させるのではなくセンサーを設置して何かあった時だけガードマンを急行させると言った時、多くの人は「そんなことは無理だ」と言ったが、今やセンサーによる警備が当たり前になっている。
 そして、これらを支えているのがデジタルの力である。当時はDXなどという言葉は無かったが、立派なDXだ。ここでの問題は、常識を打ち破ろうとしたら必ずそれに反対する人、異を唱える人が出て来るということであり、顧客もその新しいやり方、新しいビジネスモデルに戸惑う可能性があるということである。
 だからこそ、その奇策に意味があるのだ。誰もが賛成し、顧客がアンケートに書くようなことをやっていては奇策でも何でもない。競合他社も同じようなことをやって来るし、すでにやっているかもしれないような話なのだ。
 だが、やがてそれが新しい常識となる。その会社の成功を見て、ようやく他社が追随してくる。そうしてそれが当たり前になる。奇法が正法に変わるわけだ。そうなるとまたその新常識を打ち破る奇法が出て来る。そのためにもやはり、デジタルが必要になる。
デジタルを活用することで限界費用を抑え、試行錯誤しやすいようにする。ビジネスモデルを支えるためにもデジタルを使う。そしてさらにそのビジネスモデルがうまく回っているか、さらに改善、改良する点はないかをモニタリングするためにもデジタルを使う。他社が後追いして来ても、さらに先を行くスピードが重要だからだ。
 もっと言えば、一番強力な競合対策は、自らが自社のビジネスモデルを破壊する新たな常識を打ち出すことである。自社を陳腐化させるのだ。
 その時々の常識は常に一定のものではない。その時に最高だと思われるビジネスモデルも時の経過と共に陳腐化する。それをデジタルでモニタリングし、臨機応変に変更、改変して、さらにはまた新たな常識を作るのだ。
 こんなことはデジタルの力を使わなければ到底できないだろう。
念のために触れておくと、孫子の兵法をDXに用いる以上、デジタルを使えば良いと単純に考えてはならない。アナログな業務や処理がデジタルに置き換えられ、デジタルが当たり前になったら、敢えてそこでアナログに戻してみる、アナログな味つけをしてみるようなことも考えるべきである。デジタルは手段であって、奇と正は循環しているということを忘れてはならない。

孫子×DX 情報共有と情報伝達

2024-05-27

 ここから、孫子兵法の勢篇に入る。DX推進プロジェクトを加速させ勢いを増していこう。
 DXに関与する人や部門も増えて来る。プロジェクトチームメンバーだけではなく全社に拡げて行かなければならない。
 関与する人が増え、部門を横断して全社に拡がれば拡がるほど必要になるのが、情報共有と情報伝達だ。孫子はこう教えてくれている。

<勢 篇>
 『衆を闘わしむること寡を闘わしむるが如くするは、形名是なり。』
◆現代語訳
 「大部隊を戦闘させるのに、小部隊を戦闘させているかのうように統制がとれるのは、旗を立てたり、鉦を鳴らしたり、太鼓を叩くなど、合図や通信、情報伝達がうまくいっているからである。」
◆孫子DX解釈
⇒組織を動かすには、合図や通信、情報伝達が重要である。その手段が、孫子の時代は旗や太鼓だったが今はデジタルである。

 組織を動かすには、まず情報が共有されて組織の全員が共通認識を持っていなければならない。自分たちは何者で、今どこにいて、どこを目指しているのかといったことが共有されていないと、各人がバラバラな動きをすることになり、組織は崩壊する。
 情報共有ができたとすると、次に動き出すタイミングを知る(知らせる)情報伝達が必要となる。いつ攻撃を開始するのか、どのタイミングで退却するのかといったことが分からないと、組織の力を結集できない。いくら大勢の人がいたとしても、力を出すタイミングがズレたらその力は半減してしまう。複数人が一緒に重い物を持ち上げる時には「せーの」とか「1,2の3」といった掛け声をかけて力を入れるタイミングを合わせるが、それと同じである。
 この情報共有や情報伝達の手段、道具が、孫子の時代には旗や幟、狼煙、鉦や太鼓だったわけだが、現代のビジネスではそれらがデジタルツールになっただけのことである。手段や道具に囚われてはならない。大事なことはその本質であり目的である。
 デジタル化、DXの推進に反対する人には、旗や幟、鉦や太鼓で仕事の指示をすることを想像してもらうといいだろう。部署毎に旗を立てて座る位置を示し、始業の合図は太鼓を鳴らす。電話がかかって来たら鉦を鳴らして取り次ぐ。狭いオフィスで、少ない人数ならできなくはないだろうが、オフィスが仕切られたり、階が異なったり、拠点が離れたりしたら、もう使えないだろう。狭いオフィスでも同時に複数の電話がかかって来たりしたら、あっちで鉦が鳴り、こっちでも鉦が鳴って、何が何やら分からなくなるだろう。
 現代のビジネスにおいて、デジタル活用は必須である。なぜなら情報共有や情報伝達が組織には不可欠だから。戦いに勝つためには、その時代、時代において最高、最強の武器を使うべきなのは、爆撃機の空爆に竹槍で立ち向かったかつての日本を考えれば誰もが理解できることだろう。
 情報共有や情報伝達にデジタルを使うようになると、人数が多くても、オフィスが仕切られていても、複数階に分かれていても、拠点が離れていても情報共有や情報伝達が可能になるということである。
 それによって、働き方や事業運営の可能性も拡がる。分かりやすい例が、テレワークだろう。アナログなツールしかなかった時には、仕事をするには出社するしかなかった。会議も同じ場所で顔を合わせて行うしかなかった。しかし、デジタルツールがあれば家であろうと外出先であろうとどこであろうと必要な情報が共有でき、タイムリーに情報伝達ができる。
 在宅勤務ができるなら、拠点が離れていても何の支障もないことになり、国外でも良いことになる。そして自社だけに限らず、他社とも同じように情報共有や情報伝達が可能となる。他社であっても自社と同じように情報共有でき、情報伝達ができるなら、企業間の協業・協調行動もより進化するだろう。それを前提としてビジネスモデルを組むことができるようになる。
 ここまで言えば分かるだろう。
 単なるデジタルツールの導入ではなく、働き方を変え、ビジネスモデルを変える。これがDXである。だが、何のことはない。孫子の教えを現代に応用しただけの話なのだ。

孫子×DX DXを成功に導くダム

2024-05-21

 まだ決戦は始まっていない。負けない態勢を作り、イザ戦う時、雌雄を決する時のために準備をしている段階である。その戦う準備の仕上げはダムを作ることである。これが積水の計だ。
 水を堰き止めダムを作る。一度ダムを作れば、徐々に水が溜まって行く。じわじわとだが確実に水位が上がって行く。ダムに満々と水が蓄えられた時が決戦の火蓋を切って落とす絶好のタイミングとなる。孫子は、軍形篇の最後に、次の勢篇につながる積水の計を説いた。

<軍 形 篇>
 『勝者の民を戦わしむるや、積水を千仭の谷に決するが若き者は、形なり。』
◆現代語訳
 「戦いに勝利する者は、人民を戦闘させるにあたり、満々とたたえた水を深い谷底へ一気に決壊させるような勢いを作り出す。これこそが勝利に至る態勢(形)である。」
◆孫子DX解釈
⇒コツコツとデータを蓄積し、データのダムを作り、そのデータを活かして勢いを作り出せ。

 戦いで勝利するには勢いが必要である。その勢いを生み出すには溜めが必要となる。高くジャンプするためには一度しゃがみ込まなければならない。その喩えが積水である。戦争の場合には水攻めがあるので、本当に水を溜めることもある。しかし、それを現代の企業経営やDXに活かそうと思うなら、水を溜めることにこだわっていてはいけない。その本質は何か、その心は何か、その意図はどこにあるのかを考えよう。
 勢いを生み出すために溜めるものとは何か。お金もあるといいだろう。人も揃えた方がいいだろう。物資もあった方がいいろう。だが、それらには物理的限界がある。もっと無尽蔵に、もっと莫大な量を、千仭の谷にドッと解き放っても良いようなものはないだろうか。
 ある。情報である。デジタルデータである。いくらあっても嵩張らない。使っても原本は無くならない。まさにDXの要諦をなすデジタルデータを溜めるべきなのだ。
 データの中でも一番有効なのが、顧客のデータである。顧客に関するデータがあればあるほど良い。業者から買って来ても良いし、調査しても良いが、日々自社の人間が顧客と会い、会話し、やり取りをしているのだから、そのデータを溜めよう。今すぐに。明日からではなく今日から。ダム(データベース)を作って溜め始めるのだ。
 一度ダムを作れば、日々データが溜まって行く。じわじわとであっても確実にデータは溜まる。間違って消去したりしないかぎり蒸発してしまうこともない。
 ダムがだんだんと大きくなり、ある程度データが溜まったら、分析してみよう。デジタルデータなのだから分析も簡単だ。顧客を分類して構成比を見てみよう。そのカテゴリーごとに売れている商品やサービスを並べてみよう。前項で、KPIを決め、可視化しているはずだから、その経営コックピットを見てみよう。特徴的な動きがあれば、そこのデータを深堀ってみよう。
 これらのデータがすべてイザ戦う時の指針となる。戦略決定の基礎となる。どこでどう戦うべきかを決める重要な指標となるのだ。自社にとって意味のあるデータが取れたら、そのデータを売ることも考えてみよう。やろうとしていることは単なるシステム導入ではなくDXだ。情報が売り物になる。データが財産になるのだ。そうすれば、戦いに有利になるだけでなく、さらに新たな収益源も生まれ一挙両得となる。
 データの蓄積をすぐに始めること。それが積水の計である。溜めることは簡単だ。難しいことではない。しかし、イザという時になってからデータが欲しいと思ってもすぐには溜まらないのがこのデータというものである。今すぐ顧客のダムを作ろう。

孫子×DX DXの成果を可視化する

2024-05-14

 負けない準備をし、地味な成果を積み上げているだけではDX推進プロジェクトがいったいどこまで進んでいるのか、順調なのか、停滞しているのかといったこともよく分からなくなる。
 そもそもDXの成果とは何か、何をもって成果とし、それはどうやって測るのか、といったことも曖昧なままである。
 これでは合理的な判断もできず、敵味方の戦力比較もできないし、意思決定がブレてしまう。だから孫子は、成果を測る基準、物差しを明確にするように説いた。

<軍 形 篇>
 『善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す。法は、一に曰く度、二に曰く量、三に曰く数、四に曰く称、五に曰く勝。』
◆現代語訳
 「用兵に優れた者は、これまでに述べたような勝敗の道理、思想、考え方を踏まえて、進むべき道筋を示し、さらに次に述べるような軍制や評価・測定の基準を徹底させる。だからこそ、勝敗をコントロールし、勝利に導くことができるのだ。その基準とは、第一に、ものさしで測る「度」、第二に、升目で計量する「量」、第三に、数を数える「数」、第四に、比較する「称」、第五に、勝敗を測る「勝」である。」
◆孫子DX解釈
⇒優れたリーダーは、勝敗の道理、思想、考え方を踏まえて、進むべき道筋を示し、さらに次に述べるような軍制や評価・測定の基準を徹底させる。その基準とは、第一に、ものさしで測る「度」、第二に、升目で計量する「量」、第三に、数を数える「数」、第四に、比較する「称」、第五に、勝敗を測る「勝」である。すなわち、データによる評価基準を徹底することである。それができるからこそ組織をコントロールし、勝利に導くことができるのだ。

 業務効率を上げたり、コストを下げたりといった成果は、大切なものではあるけれども地味で、小さなものだ。よく注視しておかないと、DXの成果なのか、たまたまの変化なのかもよく分からなくなる。DXの成果を実感するためにも、経営者が正しい意思決定をするためにも、基準や尺度を明確にしてその結果をパッと見て分かりやすいように可視化するべきである。一般に、KPI(Key Performance Indicator)マネジメントと呼ばれるようなものを想像すれば良いだろう。
 業績の測り方だけを考えても、金額もあれば、件数もあり、前年対比、前月対比の%もあり、売上もあり粗利もあり、営業利益もあり、コスト額もあり、その増減率もあり、といろいろな見方、測り方ができる。DXプロジェクトとして何に取り組んでいるかにもよるが、その進捗度や成果を測る指標を決め、時系列にデータを整理して、グラフや表で可視化するようにしておきたい。
 もちろん、そのためにもデジタルを使う。DXの成果を測るKPIの集計を電卓を叩いて紙に手書きしていては笑い話のようなことになる。デジタル活用すれば、集計は速くて正確だし、グラフなども自動で作られるようになる。デジタルを使っていると言っても、Excelなどにデータを入れて、あっちにコピペ、こっちに転記とチマチマ作業をしていては、やはりDXプロジェクトとしてはNGだろう。
 DXに取り組む以上、少なくとも一日単位では、最新情報を確認できるようにしたい。デジタル活用すれば、リアルタイムでも可能だろうが、ずっと見張っているのも効率が悪い。分単位や時間単位で見たいデータもあるだろうが、集計量が少ないとたまたまの異常値に騙されかねない。多くの場合、デイリーにモニタリングできるようにしておくのが妥当だと思う。もちろん、必要な指標はリアルタイムでも時間単位でも適切なタイミングで確認できるようにしておくと良いだろう。
孫子の兵法をDXに活かすと自社の経営コックピットが出来上がる。これによって勝敗を測る「勝」が見えてくるのだ。

孫子×DX 焦らず確実に成果を出す

2024-05-07

 攻めのDXと守りのDXがあるとするならば、派手で目立つのは攻めの方である。大きな成果で社内を驚かせたいと考えてしまうのも無理はない。だが、ここで焦らずに地味でも良いから確実に成果を出すことを考えたい。
 戦争でも攻めと守りでは、攻めの方が派手であり手柄も挙げやすい。守りは地味であり出来て当然のように思われて評価もされにくい。前回、負けない備えをするようにと書いたが、これも同様に地味であり評価されにくい点に注意が必要だ。
 孫子はこんなことも教えてくれている。

<軍 形 篇>
 『古の所謂善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。故に善く戦う者の勝つや、智名無く、勇功無し。』
◆現代語訳
 「古くから兵法家が考える優れた者とは、容易に勝てる相手に勝つ者である。それ故、優れた者が戦って勝利しても、智将だとの名声もなく、勇敢であると称えられることもない。」
◆孫子DX解釈
⇒まずは確実に成果が出せるところから着手して成功を収める。できて当然だと言われるくらいでちょうど良い。DXは企業変革運動であることを知るリーダーが優れたリーダーである。功を焦ってはならない。

 優れた将軍は、勝てる戦しかしない。その見極めが事前に出来るところに優秀さの所以があるわけだ。だが、そのことを知らない一般人は、「そもそも敵が弱いのだから勝って当然じゃないか」と思ってその将軍を評価しない。反対に、勝敗の見通しが甘い将軍は、敵の方が優位であっても、勢いで戦争を始めてしまうことがある。勝負は時の運という言葉があるように、それでも何らかの要因で勝ってしまうこともある。すると一般人は、「あの強い敵に勝った将軍はすごい、優秀だ、勇敢だ」ともてはやすことになる。その将軍が凱旋してくれば拍手喝采である。このような道理も理解せずに、国王が一般人と一緒になって勝敗の見極めも怪しい将軍を評価しているようでは話にならないよと孫子は教えてくれているわけだ。
 優れたDX推進リーダーは、確実に成果が出せるところから着手する。それが業務効率アップやコストダウンであり、そのために「分散入力即時処理」体制を作るわけだが、地味でもあり、中小企業の場合はコストダウンの絶対額も大きくはない。一般社員も「DXって言っても、結局こんなものか」「紙が減ってスマホで入力するようになっただけじゃないか」といった反応をするかもしれない。まさに「智名無く、勇功無し」状態となる。
 全体像がつかめていない一般社員はそれで良いとしても、企業における国王である経営者が一緒になって「DXって他社ではもっと大きな成果が出ているのではないか」などと焦ってDX推進リーダーにプレッシャーを与えるようなことをしてはならない。
 デジタル化によって必ず成果は出る。他社の派手な成功事例に惑わされて、功を焦ってはならない。今は攻めに転じる前の守りの時である。守りのDXや確実に勝てる攻めのDXは地味で目立たない。経営者とDX推進リーダーがその重要性を共有し、意思疎通を図っておくことが大切である。DXは企業変革運動なのだから、ちょっとやってすぐに大きな成果が出たり、完結できるようなものではないのだ。功を焦ってはならない。

孫子×DX 負けない備えもDX

2024-04-30

 戦略を練り、勝てるかどうかを見極める謀攻篇が終わり、ここから軍形篇に入る。軍形篇ではまさに軍形を整え、戦う前の準備や心構えがどうあるべきかを説いている。
 孫子は、勝とう勝とうと逸るのではなく、まずは負けない準備、体制作りを優先するようにと教えてくれている。
 勝てるかどうかは、いざ戦う時に敵がどう出て来るか、どれくらいの戦力かという敵次第の面があって、事前に準備するといっても限界がある。では、戦う前までボケーッと待っていればいいのかと言うと、もちろんそうではない。どんな敵が攻めて来ても良いように負けない準備を進めておく。負けない準備は自軍の弱いところを補強するようなことだから、敵がいなくてもやるべきことをやっておけばいいのだ。

<軍 形 篇>
 『昔の善く戦う者は、先ず勝つ可からざるを為して、以て敵の勝つ可きを待つ。勝つ可からざるは己に在り、勝つ可きは敵に在り。』
◆現代語訳
 「昔から、戦いに巧みな者は、まず敵が自軍を攻撃しても勝てないようにしておいてから、敵が弱点を露呈し、自軍が攻撃すれば勝てるようになるのを待ち受けたものである。負けないようにすることは自分自身によってできることだが、自軍が敵に勝つかどうかは敵軍によって決まることである。」
◆孫子DX解釈
⇒まずデジタル化によって業務の効率化、コストダウンを実現して負けない企業体質を作る。その後に戦略実行に移るタイミングを計れ。効率化は自社内でやればできるが、勝てるかどうかは敵との相対的な差による。

 DXにおける負けない備えとは何か。社内の業務効率を上げ、コストを下げ、収益性を高めることである。まとめて言えば生産性を上げるということになるが、それによっていざ攻める時のために軍資金を蓄えておくのも重要なことだ。
 ここで気を付けて欲しいのが、この業務効率アップ、コストダウンをDXの中心に据えてしまうことである。デジタル活用すれば、自ずと効率も上がるし、ペーパーレスにもなり、手間も減るわけだから人員(人件費)も絞れるだろう。業務効率アップやコストダウンはある意味、デジタル化の成果が一番出やすい領域だと言える。コストダウン効果は試算もしやすいので、デジタル投資を意思決定する際に投資効果を示すことも容易だ。
 だから、多くの企業がDXに取り組もうとする際に、この業務効率を上げコストを下げるところから入ろうとするのだが、この領域で成果が出たからと言って、そこでDXがうまく行ったような気になってしまうのが問題なのだ。
 戦争で守っているだけでは勝ったことにはならないのと同様、企業経営においても自社の効率を上げ、コストダウンをしただけでは勝ったことにはならない。軍形篇で守りを先に進めるように孫子が言うのも、あくまでもここまでの戦略検討や勝つためにどうするかという思考過程を経た後に、いざ戦う時の前に守りを固めておけよということなのだ。
 特に、中小企業がコストダウンをDXの目的にしてしまうと、仮にそのコストがゼロになったとしても絶対額が小さいので大した成果にはならず、結局相対的に大きな企業との競争には勝てない。だから営業DXを起点にして進めていくべきなのだが、戦いが始まり、成果が出るまでにはタイムラグもある。そこで攻めの前に守りを固めるという目的で、社内の業務効率アップやコストダウンを実現させておくということであって、進め方の順番を忘れないようにしていただきたい。
 守りを固めたからと言っても、競争優位にはならないが、結果はすぐに出る。まずペーパーレスにして、従量的にコストがかかっているところをデジタルに置き換えることを考えると良い。一番分かりやすいのが、請求書など郵送業務のデジタル化、WEB配信化だ。
 たとえば、請求書を郵送しようと思えば、請求書を三つ折りにして封入し、宛名を書くか宛名印字をして、ポストに投函という作業が発生する。もちろん、切手も必要、封筒もタダではない。請求書の出力にも紙が必要でありプリント費用もかかる。2024年の10月には郵便料金が上がり、少なく見積もっても請求書一通あたり135円程度はかかるはずだ。これには人の手間賃は含まれていない。これをWEB配信に置き換えれば、数にも寄るが50円以下、30円程度に抑えることができる。一通あたり100円のコストダウン効果があるとすると、300件の請求書送付で3万円、500件あれば5万円のコストダウンが実現する。
 コストが月額5万円下がったところで戦いに勝てるわけではないが、業務効率も上がって、コストも下がるのであれば、経営体質の強化にはつながるだろう。これを主目的にしてはならないが、こうした負けない備えとしてのDXを進めつつ、来るべき開戦の時に思い切って戦えるように軍資金を貯め込んでおくと良い。

孫子×DX 彼を知り己を知るDX

2024-04-22

 前回、DXを成功に導くための5つの条件を示したが、その5つの条件を成立させる土台となるのが、情報力・諜報力である。そこで、謀攻篇の最後は孫子の兵法において最も有名な一節で締められている。
 情報がなければ意思決定もできず、戦いようもない。情報があってこそ5つの条件が整っているのかどうかも分かる。その情報を伝える媒体が人であっても、旗や狼煙であっても、デジタルであっても関係ない。要は、正しい情報が、適切なタイミングで、適切な人に届くかどうかが問題なのだ。デジタルを使えばそれでDXになると考えてしまうのは、強力な武器さえあれば敵に勝てると考えるのに等しい。武器も必要だが、大切なことはその使い方、使うタイミング、使う相手であって、武器そのもので勝敗が決するわけではない。
情報を操る武器を使って何をするのか。彼を知り己を知るのだ。孫子はこう言った。

<謀 攻 篇>
 『彼を知り己を知らば、百戦殆うからず。彼を知らずして己を知らば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、戦う毎に必ず殆うし。』
◆現代語訳
 「相手(敵軍)の実情や実態を知って自己(自軍)の状況や実態をも知っていれば、百度戦っても危険な状態に陥ることにはならない。相手(敵軍)の実情を把握せずに自己(自軍)の実情だけを知っているという状況であれば、勝ったり負けたりが五分五分である。相手(敵軍)のことも知らず、自己(自軍)のことも知らないようでは、戦うたびに必ず危険に陥る。」
◆孫子DX解釈
⇒競合のことも自社の力量もよく見極めて戦いに臨むこと。DXは単なるデジタル化、効率化ではなく戦いである。

 戦うにせよ、戦いを避けるにせよ、まず必要なことは敵の戦力やその動向をつかむことだ。そして自軍の戦力や展開状況を把握しておく。それによって戦うべきなのか、避けるべきなのか、どう戦うのか、どう逃げれば良いのかといったことが判断できる。だから、百戦殆うからず。情報があるからと言って百戦百勝になるわけではないが、少なくとも百戦殆うからずとなる。孫子のこの一節を知るだけでも、DXが必須であることは理解いただけるだろう。要は情報をどうつかむかという話なのだ。呼び方はDXでもITでも何でも良い。
 そして、彼を知り己を知るためにまず取り組むべきは「営業DX」であることを知っておきたい。自社の最前線に立つ営業(販売)担当者は、現代の間諜であり、そこからの情報が素早く的確に適切な人に届く仕組みが必要であり、国王や将軍(経営者やマネージャー)からの指示もまた素早く的確に適切な営業(販売)担当者に届く必要がある。
 営業(販売)担当者を単に顧客に自社商品を売り込む人だと考えてはならない。顧客(マーケット)の動きや生の声を収集してくれる諜報員なのだ。この前提に立って「営業DX」を進めると、顧客ニーズを起点とした自社のビジネスモデル変革や戦略の見直しができるようになる。そしてその顧客情報を元に、自社内の業務効率を上げるDXを進め、仕入や生産といった商品力・サービス力を上げるDXを進めるべきなのだ。
 営業部門でデジタル活用しようとすると、どうしても営業担当者にデジタルツールを持たせる情報武装を考えてしまう人や企業が多いが、それはただ武器を持たせているだけで、武器をどう使うかが問題であり、そのツールで営業担当者を管理するようなことばかり考えていては戦うための武器になっていない。せっかく情報武装したのであれば、営業担当者の管理ばかりにその武器を使うのではなく、営業担当者がマーケットで戦う時に支援したり、顧客(マーケット)の情報を収集することに武器を使うことを考えるべきである。それがあってこそ、営業(販売)担当者も武器を使いこなそうと思うようになるし、その武器を使った顧客(マーケット)へのプロパガンダも適切に行えるようになる。
 営業部門のデジタル化は、「営業の見える化」ではなく「顧客の見える化」であること、営業DXを進めることで全社のDXが進み、自社の戦略の見直しまで進むことについては、拙著「売上増の無限ループを実現する営業DX」に書いているのでそちらも参考にしていただきたい。

孫子×DX DX成功のための5条件

2024-04-16

 ここまでの流れを受けて、孫子は勝利のための5つの条件を提示している。この5条件もほぼそのまま現代のDXに当てはまる。

<謀 攻 篇>
 『勝を知るに五有り。以て戦う可きと、以て戦う可からざるとを知る者は勝つ。衆寡の用を知る者は勝つ。上下の欲を同じうする者は勝つ。虞を以て不虞を待つ者は勝つ。将の能にして君の御せざる者は勝つ。此の五者は勝を知るの道なり。』
◆現代語訳
 「勝利を得るために知っておくべきポイントが5つある。1つは、戦うべき時と戦うべきではない時の見極め。2つ目は、大部隊と小部隊の任用、運用方法の違いを知ること。3つ目は、上下の情報共有と意思疎通ができていること。4つ目は、事前の計画や段取りが周到で敵を待ち受ける準備ができていること。最後に5つ目は、将軍が有能であって、君主が過剰な口出しをしないことである。この5つが、勝てるかどうかを見極める上での要点である。 」
◆孫子DX解釈
⇒勝利を得るために知っておくべきポイントが5つある。1つは、戦うべき時と戦うべきではない時の見極め。2つ目は、大企業と中小企業の戦い方の差を知ること。3つ目は、上下の情報共有と意思疎通ができていること。4つ目は、事前の計画や段取りが周到で敵を待ち受ける準備ができていること。最後に5つ目は、DXリーダーが有能であって、社長が過剰な口出しをしないことである。

 どうだろうか。多少言葉を置き換えるだけで、ほぼそのまま通用することが分かるだろう。DXを成功に導くための要諦が、2500年も前の兵法に記されていたと言うと何だか不思議な感じもするが、何千年程度の歳月では人の本質は変わらず、人の集合体である組織の動かし方も組織同士の戦い方も変わっていないということだろう。
 DXも、デジタルを活用するという点では紀元前とは違うけれども、戦うための手段、方法に過ぎないのだから、特別視するのではなく、孫子の兵法が何を言わんとしているのか、その本質に迫る姿勢を持てば、自ずと答えが見えてくるわけだ。
 改めて、DXを成功に導くための5つの条件として整理すると、
①時流や技術の進化を読み勝負どころを知る
②中小企業と大企業の戦い方の差を認める
③経営陣のコンセンサスと社員全般の意識統一
④戦略ストーリーが明確であること
⑤DXリーダーと経営者の信頼関係
 となる。これまでに説明して来た内容で概ねご理解いただけると思うが、③の経営陣のコンセンサスと社員全般の意識統一について、少し分かりにくいかもしれないので補足しておきたい。
 ここで言う、コンセンサスや意識統一とは、DXに関してではなく、そもそもその企業がどういう目的で何を目指しているのかという点についての同意であり合意であり納得である。DX、すなわちデジタルの活用による自社の変革に関しては、未だこの段階では半信半疑で良いのだ。DXによって自社がどう変わるのか、どう成長して行くのかはまだハッキリとは見えていなくていいし、見えていないものについて合意することもできないのは当然である。
 だが、その手前、その根本にある、自社の目的や使命感、今風に言えばパーパスやミッション(ただ英語にしただけの経営バズワード)について経営陣がまず同意し、共有し、その実現に対して結束しているかどうかが問われる。そしてさらにそれが全社、全社員にも共有され、共感され、同志としての実感が生まれているかどうか。それをここでは問うていると考えると良い。
 DXはそのための手段に過ぎないし、デジタルは道具であり武器に過ぎないから、何を目指してどうトランスフォームするのかを考えるためには、その根本にある目的や使命がなければならない。
 ただ流行に乗り、DX事業部やDX推進室を置いて、デジタル活用をやっている感を出しているだけではダメだということがここでも分かるだろう。
 孫子の兵法にデジタルがどうのと具体的にDXのことが書かれているわけがないが、孫子の兵法がDXや企業経営に応用できるものであることをここで改めて認識しておいていただきたい。

孫子×DX 社長の過剰介入は避ける

2024-04-08

 戦略的なDXによって競争優位を確立して行こうとすると、当然経営トップの意思決定が必要となる。デジタルは苦手だからとDXの検討から距離を置いていた社長であっても巻き込まなければならない。それが出来るくらいのDX推進リーダーであって欲しいし、そもそも社長が信頼し諫言をも受け入れるほどの人材をDX推進リーダーに任命してもらいたい。
 だが、物事はそう簡単に思い通りには行かない。DX推進リーダーを任命したのだから、彼に任せて社長は裏からバックアップしたり、ある時は盾となって社内の抵抗勢力からの攻撃を防御する役割に徹してくれればいいのに、戦略の検討で出番があったりすると、あれこれ口出ししたくもなって来る。一方のDX推進リーダーも、そう理想的な人材がいるものではないから、信頼して任せてみたものの社長から見ると、頼りなく感じたり、進捗が遅いように感じたり、もっとこうした方がいいとアドバイスしたくもなって来る。
 DX推進プロジェクトがうまく進むかどうかは、社長とDX推進リーダーとの信頼関係、協力関係、位置関係にかかっていると言っても過言ではない。
 社長があまりにも無関心で、DX推進リーダーに任せっきりでフォローもしないようでは、社内に「社長は本気じゃないな、あまり乗り気じゃないな」というメッセージを伝えることになる。だからと言って、社長があれこれ口を出し、DX推進リーダーをないがしろにするようなことをしてしまうと、社員は全員、社長の方を向いてしまい、DX推進リーダーの推進力が大きく減衰することになる。
 こうした問題は、2500年前の孫子の時代にも当然あったわけで、孫子はこう教えてくれている。

<謀 攻 篇>
 『軍の以て進む可からざるを知らずして、之に進めと謂い、軍の以て退く可からざるを知らずして、之に退けと謂う。是を軍を縻ぐと謂う。』
◆現代語訳
 「軍が進撃してはならない状況にあるのを知らずに、進撃せよと命令し、軍が退却してはならない状況にあるのを知らずに、退却を命令するようなことでは、軍事行動を阻害し、拘束しているに過ぎない。 」
◆孫子DX解釈
⇒デジタル活用のことも現場の業務もよく分かっていないのに、社長があれこれ口を出すと現場を委縮させ、DXはあらぬ方向に向かうことになる。口を出しても良いがしっかり勉強してからにしよう。

 孫子は、国王と将軍との間の信頼関係が崩れた時に、国王がやらかしてしまう軍に対する阻害行為を挙げて国王を諫めた。現場の実態もつかまずに余計な口出しをすると、組織の指示命令系統を乱して、敵に付け入る隙を見せてしまうことになると言うのだ。
 ここでの問題は、国王(社長)が現場の状況、実情をつかんでいないことである。孫子は国王に一切口出ししてはならないと言っているわけではない。最前線の現状がよく分かっていないのにあれこれ指示をするのがいけないと指摘している。
 DXでも全く同じことである。社長が先頭に立ち、DX推進リーダーと二人三脚で自社のデジタル化に取り組んでいるなら大いに口出しして結構。むしろその方が望ましい。だが、実際には社長の多くはデジタルが不得手だったり苦手意識があったりするからこそ、DX推進リーダーを任命していることの方が多いだろう。デジタルに限らず現場の業務であっても、5名もいないような小さな組織でもない限り、社長がすべての業務を細かく把握していることはないだろうし、企業が成長発展して行くためには細かい業務は現場に権限移譲して社長がいなくても回るようにして行くべきでもある。
 デジタルのことも現場の業務のこともよく分かっていないのに(それが決して悪いわけではないが)、あれこれ「ああした方がいい」「こうした方がいい」「いやそれはどうかな」などと口出ししてしまうのはよろしくない。言いたいことがあるなら、DX推進リーダーを別途呼んで裏で擦り合わせをすれば良いのであって、他の社員もいる場で、DX推進リーダーの権威を阻害するような言動は避けるべきである。
 もっと言えば、過去からの慣習、業界の常識などに凝り固まっている可能性の高い社長の考えではなく、そうした過去のしがらみから離れて自由な発想でDXを進めるためにも、DX推進リーダーを信じて、多少の違和感には目をつむって進めさせてみるくらいでも良いだろう。もちろん、そこであまりにも逸脱した方向に進みそうになったらブレーキをかけられるように、DX推進プロジェクトの検討内容には関心を持ち、中身を見ておかなければならない。
 口出しするのが悪いのでなく、現場の実情を知らずに口出しするのがまずいのだ。紀元前の戦争でも21世紀のDXでもトップの器量や度量が求められるということを忘れてはならない。

孫子×DX 中小企業ならではのDX

2024-04-01

 戦略を考える時に注意が必要なのは、大企業、グローバル企業などの成功事例に引き摺られないことだ。一般に紹介されている成功事例は、ほとんどが大企業の事例である。何しろ「成功」事例だから。中小企業の事例では、どうしても「成功」した感が弱いし、認知度も低いから事業の内容もイメージがしにくい。そこでどうしても事例としては一般に知名度がある大企業の事例を使うことになる。前回紹介したQBハウスも、大きくなって認知度が上がっているから事例にしたわけで、誰も知らない特殊な(差別化され戦いを避けている)企業を例に挙げても、「その企業は本当に成功しているのか?」「そんな会社、本当にあるのか?」と疑われることになる。
 DXにおいても、成功事例は大企業がほとんどだ。それも海外、特に米国企業の事例が多い。そして、「日本企業はダメだ」「中小企業は遅れている」「海外を見習え」と日本と中小をディスる。自虐的な日本企業はそういうのが好きなのだろうし、危機感を煽って行動させるためには巨大な敵が迫っていると言った方が効果があるということだろう。
 だが、兵力の大小、規模の大小、経営資源の大小によって戦い方が変わることを忘れてはならない。当然、孫子もそのことを指摘している。

<謀 攻 篇>
 『用兵の法は、十なれば則ち之を囲む。五なれば則ち之を攻む。倍すれば則ち之を分かつ。敵すれば則ち能く之と戦う。少なければ則ち能く之を逃る。若かざれば則ち能く之を避く。故に、小敵の堅なるは大敵の擒なり。』
◆現代語訳
 「軍隊を運用する時の原理原則として、自軍が敵の10倍の戦力であれば、敵を包囲すべきである。5倍の戦力であれば、敵軍を攻撃せよ。敵の2倍の戦力であれば、相手を分断すべきである。自軍と敵軍の兵力が互角であれば必死に戦うが、自軍の兵力の方が少なければ、退却する。敵の兵力にまったく及ばないようであれば、敵との衝突を回避しなければならない。だから、小兵力しかないのに、無理をして大兵力に戦闘をしかけるようなことをすれば、敵の餌食となるだけのこととなるのだ。 」
◆孫子DX解釈
⇒デジタル人材もいない中小企業が、「プラットフォーマー」や「ゲームチェンジャー」となってIT巨人と戦おうとしてはならない。

 資本力や人的リソースが大きく劣っていることを忘れて、大企業と同じような戦略で戦おうとしてはならない。成功事例を参考にするのは良いが、そのまま中小企業に置き換えてもうまく行かないことの方が多い。特に、DXの事例でよく出て来る巨大IT企業の事例に踊らされないことが重要だ。多くのDX本には、GAFAMと呼ばれる巨大企業の事例や「プラットフォーマー」「ゲームチェンジャー」といった言葉が並んでいる。中小企業が「山椒は小粒でもぴりりと辛いのだ」と精神論でそんなことを真似しようと思っていては、「小敵の堅なるは大敵の擒なり」で終わり。仮に一時はうまく行っているように思えても、うまく行けば行くほど、成功すればするほど敵に見つかって「十なれば則ち之を囲む」包囲作戦でやられて終わり。これまでMicrosoftに潰されたり吸収されたりしたベンチャー企業がどれだけあったかを思い出してみれば分かるだろう。
 大企業やグローバル企業と正面切って戦ってはならない。避けたり逃げたりすれば良いのだ。その一つの道筋が「リアル・ヒューマン戦略」。DXでデジタル活用するのはもちろんだが、敢えて一部に生身の人間を介在させる。その分、効率は落ちるが、だからこそ大企業やIT巨人はやって来ない。ネット経由やロボットやAIでは再現できない生身の人間力(手触り・おもてなし)を顧客接点で活用するのだ。人を動かすとどうしてもコストが上がり、効率が落ちるので、その裏で自動化、標準化、デジタル化して徹底的にローコスト化を図る。そこに中小企業ならではのDXがある。
 一般のDX本に書かれた事例やDX専門家が語る「アメリカでは」「IT先進国では」「GAFAMでは」という「出羽守論法」に踊らされてはならない。中小企業には中小企業なりの戦い方があるのだ。DXも同じことである。

孫子×DX 戦略的DXとは

2024-03-28

 DX推進リーダーが決まりデジタル化への機運が社内で高まって来たところで、自社の戦略を見直したい。そこで、孫子の兵法、謀攻篇に入る。
 DXは最終的に競争優位を確立することを目指す。経産省のDX定義にも「製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と書かれているし、「競争優位の確立」と言われても特に違和感はないという人が多いだろう。
 だが、孫子兵法家はここをスルーしてはならない。競争上の優位性とは誰との競争なのか、何とどう比べて優位だと考えるのかという点を見逃していては戦いには勝てない。まず、誰と戦うのか、誰と戦わないのかを決めることが大切となる。そこでどう戦うのかというストーリーが戦略だ。戦略もなく、ただデジタル化し、業務を効率化するだけでは真のDXとは呼べないのだ。
 孫子は戦略とは戦いを略すことであると教えてくれている。

<謀 攻 篇>
 『百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。』
◆現代語訳
 「百回戦って、百回勝利を収めたとしても、それは最善の策とは言えない。実際に戦わずに、敵を屈服させるのが最善の策である。」
◆孫子DX解釈
⇒戦わずして勝つ戦略を立て、それを実行する方法、仕組み、仕掛け、ビジネスモデルをデジタルで実現せよ。

 戦略的なDXにするためには、まず自社に戦略がなければならない。最善の戦略は戦わずして勝つことである。全く戦わないのは無理だとしても、出来るだけ戦いは避け、戦うにしても真正面から激突するような戦いは避けるべきである。これが孫子の教えだ。兵法家なのに、なるべく戦うなと説いた。敵がいないところを攻めれば戦いはない。敵は誰で、誰と戦わないのかを決める。これを現代の企業経営に置き換えるとドメイン(事業領域)を独自なものにすると考えれば良い。
 一般に、自社のドメインは、肉を売っていたら肉屋であり、家具を作っていたら家具製造業であるというように「物理的定義」で認識されている。そして多くの場合、競争上の優位性における競争の場所と優位か劣位かの比較は、暗黙のうちに同業者、業界内をイメージしている。これではわざわざ血みどろの戦いをしに真正面から敵と対峙するようなもので、孫子の兵法をまるで実践できていないことになる。
 戦わないためには、ドメインシフトする必要がある。ドメインは物理的定義から機能的定義か便益的定義に置き換えて、それによって自社が戦う方向性を明確にすることが重要である。同業者との戦いを全くゼロにするのは難しくても、決して正面からは戦わない。家具製造業を例に分かりやすく言えば、機能的定義では収納機能提供業や室内装飾業といった表現ができる。便益的定義では快適生活実現業やリラクゼーション提供業といった切り口にしても良い。実務的にはもうちょっと捻りを加えて更に独自性がある方が良いが、ドメインを決めたら、そこから逆算して、それならその実現手段は家具でなくても良いのではないかと考えてみる。収納機能付き住宅や家具付き賃貸などはそうした発想の転換から生まれたかどうかは分からないが、家具製造という自社のノウハウも活かしながらドメインシフトするイメージができるだろう。家具が必要ない収納機能が組み込まれた家を建てたり販売している企業は何業と呼ぶべきだろうか。自社で作った家具を予め配置した賃貸住宅を提供している企業はもはや家具製造業とは言いにくいだろうし、不動産賃貸業・不動産販売業ともちょっと違うと言いたいだろう。
 これが、戦いを避け、真正面からの激突を避けるドメインシフトだ。
 そして、新たなドメインで提供すべき価値をデジタルで増幅させ、差別化要素を大きくさせることを考えると良い。その際には、まさに血みどろの戦いを避ける戦略として有名な「ブルーオーシャン戦略」を思い出すと良いだろう。孫子兵法家にとってはブルーオーシャン戦略は孫子のパクリかな?と突っ込みたくなるような当り前の話だが、そこで出てくる「戦略キャンバス」は分かりやすいので活用したい。顧客がその企業なり商品・サービスを選択する際の要因を並べて、無くしたり減らしたりする要因と大きく突出させる要因とを明確にする図示手法だ。
 分かりやすい例が10分カットの「QBハウス」。シャンプーや顔剃りを無くして、その分時間を10分に短縮。予約もない代わりにネット上でどの店も待ち時間が分かる。売り物は理髪サービスではなく「省時間」である。単に価格を下げただけの価格競争ではなく、価格を下げてもより以上に売上が上がるビジネスモデルを構築したわけだ。当初は三色燈と呼ぶ赤、黄、緑のライトを店外に設置して待ち時間を示しているだけだったが、今やデジタル活用され、混雑状況の予測までされている。
 QBハウスを参考にして、自社でも競争要因のメリハリをつけて、デジタルでそのマイナス部分を補い、プラス部分を増幅、増大させるビジネスモデルを作れないか検討してみよう。それが出来たら、そのデジタル活用は、戦略的なDXと呼ぶことができるだろう。

孫子×DX 社員に自信を持たせる

2024-03-15

 ノーコーダーを養成する中で、自社を良くしようとする当事者意識と他者を巻き込むリーダーシップを持った人間を抜擢して、DX推進リーダーに任命したい。必ずしもデジタルが得意である必要はない。ノーコードツールを使えれば良いのであって、大切なことは当事者意識であり、自社を良くしようという思いである。
 そして、DX推進リーダーに選ばれた人には、DXの本質を理解してもらっておくことが重要となる。それによって、孫子が言う「兵を知る将」となり、「民の司命、国家安危の主」となることができる。

<作 戦 篇>
 『兵は勝つことを貴び、久しきを貴ばず。故に兵を知る将は、民の司命、国家安危の主なり。』
◆現代語訳
 「戦争では速やかに勝利を得ることを重視し、長期化することを評価しない。だからこそ、こうした戦争の利害・得失を理解している将軍が、人民の死命を制するリーダーとなり、国家の命運を司る統率者となれるのである。」
◆孫子DX解釈
⇒長期プロジェクトにせず、まずは短期プロジェクトで成果を出せ。社員に勝てる!やれる!という実感を持たせることのできる人間がDX推進リーダーとなるべきである。

 DX推進リーダーなどと呼ぶと、やはりデジタルに詳しい人間でなければならないのではないかと思うかもしれないが、そうではない。この段階で大切なことは社員の過半が「これならやれる」「これならできそうだ」「これなら勝てる」という自信を持つことである。人間はできそうだなと思うからそれに向けて努力するのであって、自分にはできそうにないと思えば、あれこれ理由をつけ、言い訳をして拒否したり否定したりするものだ。
 その意味では、DX推進リーダーは、それまでデジタルとは無縁で、どちらかと言えばアナログな人だと思われていたくらいの方が適任であるとも言える。そんなアナログな人が、ノーコードを学び、ノーコードツールを使いこなして、ちょこちょこっと自作の業務アプリを作ったりすると効果てきめん。「あの人にもできたのだから、自分にもできるのではないか」「あの人も頑張っているのだから自分も頑張ろう」と思わせることができる。
 まずは短期の小さなプロジェクトを成功させて、社内の空気を前向きにさせよう。
 そして、DX推進リーダーは「兵」を知ること。孫子の言う兵とは戦争のことであり、その本質をつかめと教えてくれている。ここでの「兵」はDXでありデジタル活用による競争優位の確立である。その本質は、「限界費用ゼロでビジネスを拡大させる武器を手に入れ、その武器を使いこなすこと」にある。
 これを理解せずに、ただデジタルツールを導入し、社員にPCやスマホを持たせて業務を効率化すればDXだろうと考えていては、目先のコストダウンやスピードアップ程度の成果は得られても最終的な勝利には結びつかない。それでは「民の司命、国家安危の主」にはなれないのだ。
 DXの本質は、限界費用ゼロというデジタルの特性を最大限に活かすことであり、さらに顧客増、件数増、取引増によって固定費用の按分をもゼロに近づけるものだ。
 限界費用が分からない人は、会計の勉強もした方が良いが、簡単に言えば変動費のこと。デジタルを使うと、顧客が一軒増えたり、取引が一回増えても、追加的に発生する費用(限界費用・変動費)はほぼゼロである。だからIT企業は法外な利益を出しているのだ。デジタル化するとコストダウンが実現するのも限界費用がゼロだからだ。まずこのことを頭に入れておこう。
 但し、それだけでは固定費が残る。システムを導入したりデジタル化するための初期投資があり、その維持にも費用がかかるし、それを動かすための人件費も必要だから、すべてのコストが下がるわけではない。だがそれらは固定費なのだから、顧客増、件数増、取引増に伴って比例的に増えていくことはない。
 だからこそ、顧客増、件数増、取引増を進める。そうすると、固定費の按分が減る。一顧客当たり、一件当たりのコストが、数が増えれば増えるだけ減少し、やがてほぼ意識しなくても良いようになる。簡単な例で説明すると、1億円の固定費があっても、1億件の取引を限界費用ゼロでこなせば、1件あたり1円となって、ほぼコストは意識しなくても良くなるということ。だから世界中に何億、何十億というユーザーを持つグローバルIT企業は、莫大な利益を上げている。GAFAMはその典型例だ。
 DXとは、このデジタルの特性を自社の経営に取り込むことである。従って、業務効率を上げてコストダウンするといった内向きの生産性ばかりを考えるのではなく、顧客を増やし、取引件数を増やすためにデジタルを活用することを優先すべきなのだ。特に、中小企業の場合は、元々のコストの絶対額が小さいので、業務効率アップによるコストダウンを考えているだけでは成果が限定的で、デジタルの特性を活かし切れない。
 デジタル人材がいない中小企業は、営業DXから進めるべきであるというのは、こうした理由による。詳しくは拙著「売上増の無限ループを実現する営業DX」をお読みいただきたい。

孫子×DX 拙速を尊ぶノーコード

2024-03-07

 IT化やデジタル活用に消極的な経営者の多くは、時間もコストもかかった割に大した効果も出なかった、システム導入の古い記憶が頭にこびりついているように感じる。今や自社にサーバー(と言っても分からない人は大きなパソコンと考えよう)を置く必要もなく、クラウド(インターネット上の)サービスを利用して、一括で投資(ゼロからシステムを作る開発費負担)をしなくても月額料金を払うだけで良くなっている現実を知るべきである。
 「そんなことは分かっているけれども、自社にはそれが分かる人材がいないから、仕方なく案外高い費用をシステム業者に支払っている」と思った経営者は、そのシステム業者にカモにされている可能性があるので気を付けよう。デジタル人材もいないから業者の言うことの正否が判断できず、言いなりになっているのかもしれない。今やノーコード(ノンプログラミング)ツールが出回っていて、プログラムを書いたりしなくても、自社に合わせたシステム運用ができるサービスもある。デジタル人材などいなくてもデジタル活用ができるのだ。
 ノーコードを使えば、自社でシステムの開発、改良が出来るから、対応スピードは格段に速くなるし、コストも安く抑えられる。ゼロからプログラミングして作った方が完成度は高くなるが、どうしても時間もコストもかかってしまう。そんなことなら拙速を尊ぶノーコードを選択すべきなのだ。それが孫子の教えだ。

<作 戦 篇>
 『兵は拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざるなり。』
◆現代語訳
 「戦争には多少拙い点があったとしても速やかに事を進めたという成功事例はあるが、完璧を期して長引かせてしまったという成功事例はない。」
◆孫子DX解釈
⇒完璧を目指して考えてばかりいるよりも、まずやってみる、ノーコードで試してみることが重要。

 DXを進める時に必要なことは、外部に依存せず、自社で試行錯誤が繰り返せるようになることである。デジタルという武器を手に入れるだけでなく、その武器を使いこなすことが重要だからだ。デジタルを使いこなすには、プログラミングが出来るデジタル人材が必要だ、となるのだが、そんな人材はいないし、リスキリングで育てようと思ってもハードルが高い。万が一、リスキリングに成功したり、元々パソコンオタクみたいな社員がいて、やらせてみたら凄かったということがあったとしたら、その人はDXブームに乗って他社へ転職して行くだろう。
 だから、デジタル人材がいない中小企業はノーコーダーを育てるべきなのだ。ノーコードツールであれば、デジタルに詳しくなくてもちょっと勉強すれば使えるようになる。そもそも素人でも使えるように作られているのだから・・・。そして、非デジタル人材向けのマニュアルや動画教材などが準備されていることが多い。
 ちょっとITに詳しいといった程度のシステム担当者よりも、実務に詳しく自社のことを本気で良くしたいと考えてくれる人材をノーコーダーとして育てるべきである。そもそもDXを進めるには、デジタルの知識や技術だけでは不十分である。いくらプログラムが書けても、業務をどう変えるか、その業務がどうあるべきかを考え、他の社員を巻き込んで業務改革を進めて行けるかどうかは別問題だからだ。
 ちょっとITに詳しいからと、アナログ社員を下に見て、「うちの社員はリテラシーが低いから」などと批評家のような発言をする中途半端なデジタル人材など害悪ですらある。それよりもノーコーダーがいい。ノーコードでるが故の制約はあったとしてもノーコードで素早く、コストをかけずにアジャイル開発できる方がいい。
 デジタル人材がいない中小企業のDXは拙速を尊ぶ。

孫子×DX DXの成果を実感させよ

2024-02-26

 DXは企業の存亡を左右する分岐点であり、避けて通ることはできない。しかし、デジタル人材もいない中小企業がDXに取り組む際には、経営者をはじめ、社員全員がデジタル活用に対して半信半疑であり、「うちの会社でDXなんてできるのか?」と不安に思っているものである。
そこで、孫子「作戦篇」に入る。
<作 戦 篇>
 『其の戦いを用うるや、勝つことを貴ぶ。久しければ則ち兵を鈍らせ鋭を挫く。城を攻むれば則ち力屈き、久しく師を暴さば、則ち国用足らず。』
◆現代語訳
 「戦争を遂行する際の一番の目的は勝つことであり、戦争を長期化させてしまうと軍を疲弊させ鋭気を挫くことになる。敵の本拠である城塞を攻めるようなことになれば、戦力を消耗させてしまうことになるし、長期間の戦争行動は国家財政の破綻を招くものとなる。」
◆孫子DX解釈
⇒ただデジタル化、ペーパーレス化を進めれば良いのではない。自社の競争優位を高め、勝たなければならない。長期プロジェクトでコストを浪費するのではなくまずは短期決戦でコストを抑え成果を上げよ。

 DXは、「製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」だから、単発のシステム導入やクラウド活用で、一朝一夕に実現するものではない。競争優位を確立するのはもちろん、企業文化や風土まで変えようと言うのだから、3年や5年かかってもおかしくない、企業変革の取り組みである。
 だがそれは、始皇帝が中華統一したり、信長、秀吉、家康とバトンリレーして江戸幕藩体制ができたり、といった一連のプロセス全体を捉えたものだと考えるべきだろう。プロセス全体を見れば、当然長期戦になるけれども、そこに至るまでに桶狭間があり、長篠があり、中国大返しからの天王山があり、関ケ原があったように、いくつかの戦いを積み重ねることになる。ここで孫子は、長期戦にしてはいけないと説く。
 DXに取り組む緒戦は、小さくてもいいので成功(勝ち)を社員に実感させるようにすべきである。DXという未だ全体像がつかめない、どうなるか分からない大目標だけを掲げて取り組んでいては、いつまで経っても戦いが終わらないことになリ、現場ではいつまで戦えばいいのかと厭戦ムードも高まって来る。
 まず、社員の多くが「DX、いいじゃないか」「なかなか便利じゃないか」「案外楽ちんになるな」と実感できるように小さな成功を目指すべし。織田軍が桶狭間の戦いで勝利して勢いづいたように。
 緒戦で勝利するために大切なことは、全員にIDを付与することである。全国民にマイナンバーを割り振るように、社員全員に識別情報を持たせる。全員がIDを持っているから社内業務をデジタルで処理できる。ここをケチって、IDを使い回しさせたりするから、デジタル化の効果が半減して業務効率も大して上がらない。
 高速道路のETCを考えてみれば誰しも納得するはずだ。すべてのクルマがETCを着けていれば有人の料金所は必要なくなる。すでに非ETC車は全体の7%以下である。たった7%のアナログ処理のために、レーンを分け、人を置いているわけだ。これと同様のことが社内で起こると考えれば良い。
 そして、「分散入力・即時処理」の仕組みにする。今やスマホも安価になって、ビジネスの現場にいるほとんどの人が持っているのだから、情報の入力を現場の個々人にやってもらう。その途端に処理は完了。これがデジタルの力だ。
 しかし、多くの中小企業が、システムを導入しても、特定の人や部署にアナログデータを一旦集めてから一括入力させているので、処理に時間もかかり、入力担当部署に負担がかかって、デジタル化の恩恵が得にくい。データをExcelやメールで送ったりするのでデジタル化しているような気分になっている人が多いが、やっていることはアナログだ。これは紙での処理プロセスをそのまま残しながらデジタル化しようとするから起こる。そうではなく、デジタルを前提にして、これまでの処理プロセスを見直すことが肝心だ。
 IDを全員に付与して、「分散入力・即時処理」ができたら、社内に「処理が速くなった」「案外簡単だね」「決裁が速くなって助かる」と言った実感が広がる。これで満足してはいけないが、小成功だ。
 そこに加えて、これまで郵送していたものをデジタル配信に変えてみるのも効果が実感できる取り組みだ。どこの会社でもあるのが請求書の配信。請求書を郵送するためには、郵便料金や封筒などの費用がかかり、三つ折りにして封入するなどの作業も必要となる。郵便料金も上がっているから一通あたり120円から150円くらいにはなるだろう。それをWEB配信にすると、件数にもよるがコストはおよそ半分から1/3にできる。もちろん人の手間も減り、さらには出社する必要性も減るから、テレワークなどにも対応できるようになる。もちろん、請求書を受け取る顧客側も出社せずに処理が可能となる。
 これで目に見えてコストも下がるから、社内には、「DX、いいね」「コストがかかるのではなくコストが下がるなら文句はない」と言った声が広がるだろう。これがDXだとは言えないが、小成功だ。天下は獲っていないが桶狭間での勝利で士気が高まった状態だ。
 こうして、小さな勝利を積み重ねることが天下を獲る(DX)のためには必要だ。小さな成功で、社内をその気にさせよう。

孫子×DX DXとは詭道なり

2024-02-17

 DXに取り組んでみよう、進めて行こうと思った時に、多くの企業は「あるべき論の壁」「常識の壁」にぶち当たる。特に、デジタル人材もいない中小企業は、世の多くのDX論、DX本、DXコンサルタントの説く、画餅のような空理空論にやられてしまうことになる。
 DXの壁とは、IT系のコンサルタントやシステム事業者(要するに、DXの専門家を名乗っている人たち)が説く、DX成功のためにはこれが必要だと言う3つの条件を真に受け、信じてしまうことである。
 DX専門家曰く、DXを成功に導くためには、
1.経営者のコミットメント(決断と積極的関与)
2.経営者が示すデジタル活用した将来ビジョン
3.デジタル人材(DX推進リーダー)の確保
が必要だそうだ。それができたら苦労しないよ、という話である。こんなことが条件だと言われたら、大企業でもほとんどがチーン!となってお終いだ。
 そうしてガッカリさせておいて、「だからこそ弊社がお手伝いするのです」「私どものコンサルタントが支援します」「何でしたらデジタル人材の派遣も出来ます」と売り込む。そのために、敢えて出来もしないことを言っているのではないかと思う。たぶん。。。そうとしか思えないほど、絵空事だ。
 まず、1の経営者のコミットメントについては、そもそも経営者がDXに取り組もうと意思決定しないと事は進まないので、一応決断はするかもしれないが、まだ自社のDXによって何がどうなるかも分からないのだから半信半疑に決まっているし、積極的に関与することが余計な口出しになったら、却って邪魔ですらあったりもする。
 そして、2だが、経営者がデジタルに詳しくなく(普通はそうだ)、DXの成果にも半信半疑な状態で、デジタル活用した将来ビジョンなど描けるはずがない。まだ分からないのだ。そんなに簡単にビジョンが描けるようなら、他社も同じようなことをやって、結局大したことにはならない。この辺りは、コンサル会社が事例を持って来て「お任せください」とか言いそうな部分だ。事例の真似をするだけだから横並びにしかならない。
 最後に決定的なのが、3のデジタル人材の確保。既に、IT業界やコンサル業界のせいでデジタル人材は引く手あまたになっており、一般の会社にそう簡単にデジタル人材が来るわけがない。ましてや中小企業であれば、可能性はほぼゼロで、もし仮にまかり間違ってデジタル人材が入社したとしても、「ITに詳しい便利屋さん」扱いされて、PCセッティングなどの雑用をさせられ、まともなデジタル人材なら、幻滅して辞めて行くだろう。何しろ自身のデジタル技術を発揮する出番がないのだから。
 この3つの条件は、大企業でもクリアするのが難しいし、日本企業の99.7%を占める中小企業ではほぼ不可能だ。だからこんなことが書いてある本を読んだり、セミナーを聞いたりしたら「うちみたいな中小には無理だな」「うちにはデジタルが分かる人材などいないから出来そうにない」と端から諦めてしまうことになる。
 こんな空理空論を真に受けて、「あるべき論の壁」「常識の壁」で意気消沈してはならない。こんなことは出来ていなくて当然であり、デジタル人材などいなくてもDXは進められる。ちょっとシステムに詳しいといった程度の中途半端なデジタル人材などいない方がマシなくらいだ。だから、デジタル人材がいない中小企業の人も、安心して「孫子×DX」の勉強をしてもらいたい。孫子の知恵でDXを実現すればいいのだ。
 孫子計篇にはこんな教えがある。
<計 篇>
 『兵とは詭道なり。故に、能なるも之に不能を示し、用いて之に用いざるを示す。』
◆現代語訳
 「戦争とは、相手を欺く行為である。したがって、戦闘能力があってもないように見せかけ、ある作戦を用いようとしている時には、その作戦を取らないように見せかける。」
◆孫子DX解釈
⇒自信がなくても自信があるように振る舞い、スキルが足りなくても十分なように見せかけよ。デジタル人材がいない中小企業のDXは一筋縄では成功しない詭道なり。

 何でも正攻法で行けばいいというものではないということ。常識とされているものを疑ってみることが重要なのだ。
 経営者は、DXの必要性さえ理解納得していれば、細かいことはよく分からなくても、とにかく「前に進め!」と号令すべし。半信半疑でもいいから、とにかく着手して、試行錯誤しながら自社のビジョンを描いていけば良い。DXだからと特別なことのように考えずに、普通に自社の将来像を描いてみれば良い。5年後10年後を考えれば自ずとデジタルの要素が入って来ることになる。時代の流れがそうなっているのだから。
 その時、社員に対して、自信がなくても自信があるように言っておこう。デジタル人材がいなくても大丈夫だと言い切ろう。社内にデジタル人材はいないのだから、社員もどうせ分かっていない。ここで大切なことは、カラ元気でもいいから将来への希望を示すことだ。
 敵を欺くにはまず味方からと言うではないか。DXを進めるためには、まず社内を良い意味で欺いて、前向きにさせること。デジタル人材もいない中小企業が、綺麗事の理想論を語っていても何の解決にもならない。
 「DXとは詭道なり」なのだ。

孫子×DX DXは企業経営の大事

2024-02-15

 孫子が「DXするべきだ」と言うはずだ、孫子の兵法がDXに応用できる、と断言している以上、孫子13篇の中からDXに使えそうな部分だけをピックアップして、「ほら、孫子がこう言っているでしょ」と都合のよい切り取りをしたのでは説得力がないだろう。
 情報(間諜)を扱う用間篇だけを取り上げて、「孫子は情報を重視していましたよ」と言えなくもないが、それは13篇中の1篇の話に過ぎないことになり、「孫子の兵法がDXに応用できる」とまでは言えない気がする。
 そこで、私(孫子兵法家)が都合よく孫子の使えそうな部分だけを取り出して、孫子の兵法の趣旨とは関係なくDXに応用できると言っているに過ぎないと思われてはいけないので、孫子13篇に沿って、DXの進め方を解説して行くことにしたい。
 もちろん、孫子全篇に渡ってDXに使える内容だけが書かれているわけではないので、孫子全文を取り上げることはしないが、計篇、作戦篇、謀攻篇、形篇、勢篇、虚実篇、軍争篇、九変篇、行軍篇、地形篇、九地篇、用間篇、火攻篇からなる13篇の順に従って解説する。そのため、DXの進め方としては多少順番が前後したり、重複することにもなるが、2500年も前の兵法を元にしているわけだし、そもそも孫子自体も篇の順番には議論があるところだから、そこはご容赦願いたい。都合よく孫子を切り貼りしたり入れ替えたりしていないということをご理解いただければと思う。
 それでは、計篇から始めて行こう。
<計 篇>
 『孫子曰く、兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざる可からざるなり。』
◆現代語訳
 「戦争は、国家にとって重要な問題であり、避けて通ることはできない。国民にとっては、生きるか死ぬかが決まる所であり、国家にとっては、存続するか、滅亡させられるかの分かれ道である。徹底して研究すべきことであって、決して軽んじてはならない。」
◆孫子DX解釈
⇒DXは企業経営を左右する大事である。成長か衰退か、存続か消滅かを分ける分岐点なのだ。徹底して研究すべきことであって、決して軽んじてはならない。

 孫子の第一篇、計篇の冒頭で、孫子は戦争が国の存亡を左右する重大テーマであると宣言した。今、まさに企業が生き残るか消滅するか、死生、存亡の分かれ道となるのが、デジタル化への対応だ。なぜなら、人口減少が今後ずっと続いて行くことがほぼ確実だから。少なくとも日本では、今社会人として仕事をしている人が生きている間に人口増に転じることはないだろう。
 人口減少となれば、働き手だけでなく、顧客も減る。システム化、デジタル化、機械化、自動化し、無人もしくは少人数で仕事が回る体制にして生産性を上げなければならない。それがDXだ。デジタル活用を飛び越えて、AI化、ロボット化も進めていくべきだろう。今現在、目の前にある仕事は人手によるアナログ処理で回っていても、5年後、10年後、20年後を考えれば、今、デジタル活用に舵を切って手を打っておかなければどういう結末になるか、自ずと答えは出るはずだ。これは経営の一大事である。
 その分岐を、DXと呼ぼうと何と呼ぼうと名前はどうでもいい。今はたまたまDXという言葉が広まっているだけだ。名称がどうであれ、真剣に取り組むべき重要課題であることは間違いない。
 経済産業省のDXの定義「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」を見ても、「データとデジタル技術を活用して」の部分をカットすれば、企業が存続するための当り前のことしか書かれていない。人手も足りなくなるのだから、データとデジタル技術を活用して何とかするしかないのだ。
 「DXは企業経営を左右する大事である。」まずこのことを肚落ちさせてから、先に進もう。

孫子×DX 孫子の要諦とは

2024-02-05

 孫子は、紀元前500年、中国春秋時代に呉の闔閭に仕えた兵法家、孫武によって著された最古にして最高の兵法書と言われる。2500年もの間、洋の東西を問わず、軍事だけでなく組織運営や企業経営においても指南書・参考書として読み継がれ、評価され続けて来たわけだから、時代を超えた珠玉の教えであることは間違いない。
 そんな珠玉の智恵を活用しない手はないだろう。
 しかし、ただ古典として現代語訳を読んで分かった気になるだけでは意味がない。それを応用し、実践に活かしてこそ価値がある。孫子兵法家である私の役割は、孫子兵法を企業経営に応用し、多くの人に分かりやすく紹介することだ。今回は、「孫子×DX」というテーマで、DXに活かす方法をお伝えする。DXは企業経営の一部だから、当然孫子兵法家の範疇に入るわけだ。敢えてDXに活かそうと考えるのには訳がある。それは孫子の要諦は何なのかを考えれば自ずと行き着くものである。
孫子13篇をどう読み解き、どういう視点でその要諦を引き出そうとするかによって、違うポイントを抽出することもできるのだが、私が孫子兵法家として、孫子の要諦を3つ挙げるとこうなる。

<戦わずして勝つ>
『百戦百勝は、善の善なる者に非るなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり。』
 孫子の神髄と言っても良いのが、兵法なのに、戦わないことを勧めている点だ。戦争がなければ、兵法家の出番もないのに、戦わずに国益を得ることを第一に考えた。そういう意味では兵法というよりも帝王学に近いと言えるだろう。国を保全し、兵や国民を保持することを最優先させている。
 そして次に、

<勝てる戦いしかしない>
『未だ戦わずして廟算するに、勝つ者は算を得ること多きなり。算多きは勝ち、算少なきは勝たず。』
『彼を知り己を知らば、百戦殆うからず。』
 戦いを避けようとしていても、どうしても戦わなければならない事態となることもある。その場合であっても、勝てる戦しかしない。戦う前に勝敗を予想し、勝てる道筋が描けてはじめて戦いを始める。敵味方の兵力差を把握し、勝ち目がないと分かったら逃げる。もしくは近づかない。だから「百戦殆うからず」となる。「百戦百勝」ではないのだ。
 だからこそ3つ目に、

<そのためには情報が必要>
『惟だ明主・賢将のみ、能く上智を以て間者と為して、必ず大功を成す。此れ兵の要にして、三軍の恃みて動く所なり。』
 戦って勝つには兵力、戦力が重要となるが、事前に戦わないようにし、戦うにしても勝てる時しか戦わないためには、それを判断するための情報が必要となる。そういう意味では、この3つの要諦は一体となっていて孫子の根底にある基本の考え方であるとも言える。
孫子は情報を重視した。だから13篇の中に「用間篇」という間諜のための篇を設けた。間諜とはスパイのことだが、これは現代に置き換えれば情報のことだ。紀元前には、情報は間諜がもたらすものだった。間諜をどう使うかが情報戦略だったわけだ。群雄割拠の戦国時代において戦わずに勝つためには各国がどういう状況でその国王が何を考えているのかを知る情報力が必要だった。勝てる戦しかしないためには、敵の兵力や陣形、将軍の力量などを事前につかむ情報力が必要だった。その情報力、すなわち間諜力があってこそ、孫子の兵法は成り立つ。これが孫子の要諦である。
 それを現代の企業経営に応用すれば、DXが必須であり、急務であることが分かるだろう。孫子が今いれば、必ず「DXを急ぐように」、「情報力を強化するように」と、企業経営者に進言するはずである。それが「孫子×DX」である。
 次回はいよいよ、「計篇」に入る。

孫子×DX 孫子兵法でDX

2024-02-01

 今年もまた言い訳から入らなければならない。一年前に、改正電帳法のために全兵力を投入したのに2年間の宥恕措置で戦意喪失して、ブログの更新ができなかったと言い訳した。それ以降、このブログを更新していなかった。今度は、インボイスと電帳法のダブル駆け込み需要で忙しくなったからだ。つくづく人間は追い込まれないと動かないものだなと思う。自分もそうだ。反省だ。
 だが、孫子兵法家たる者、そんなことではいけない。孫子兵法を現代の企業経営に活かすのが孫子兵法家の使命であり役割だから、心を入れ替え、気合を入れ直してブログを書くことにする。たぶん。。。。
 テーマは「孫子×DX」。孫子の兵法でDX(デジタルトランスフォーメーション)を成功に導く。2500年も前に書かれた孫子に21世紀のデジタル活用の方法など書かれているわけがないと思うだろうが、それは違う。そんなことを言ったら、企業経営のことも一切書かれていない。孫子に書かれているかどうかではなく、孫子兵法家は、孫子(孫武)の心となり、脳となり、現代に孫子が蘇ったとしたら何と言うか、どういうアドバイスをするかを代弁する。まるでイタコのような存在である。
 今ここ、2024年に孫子がいたら、間違いなく、企業経営者にDXを急ぐように言うだろう。なぜなら「情報が戦争の要」だから。もちろん、情報を扱う道具はまるで違う。孫子の時代には、鉦、太鼓、幟、狼煙、そして間諜を使った。現代は、PC、スマホ、データベース、センサー、インターネット、AI等々、多くの道具が使える。道具は違うが、やることは同じ。「彼を知り、己を知る」「人に取りて敵の情を知る」そして「明主・賢将のみ、能く上智を以て間者と為して、必ず大功を成す」わけだ。
 人口減少が加速し、生産性の低さを指摘され続けている日本企業にはDXが不可欠である。だが、その進捗が極めて遅い。私はそれをインボイスと電帳法への対応で嫌というほど実感した。どう考えてもシステムで処理すべきなのに、「紙でやる」「一件ずつコツコツ保存する」「税務調査で突っ込まれなければ大丈夫だから何もしない」とアナログ処理のまま頑として動こうとしない多くの企業やその経営者を見て来た。法改正があってもやらないくらいだから、そういう企業は淘汰されるしかないだろうが、何とか頑張ってシステム化しようとしてもDXには程遠いという企業が少なくない。
 そこで、孫子の出番である。「孫子×DX」である。孫子の兵法に基づいてDXを進めていけば、必ずうまく行く。DXを単なる流行だと考えてはいけない。DXという言葉自体は流行語であり、バズワードだろうが、中身は時代を超えてやるべき重要なことだ。だから孫子の兵法が適用できる。時代を超えて生き残っている孫子が活用、応用できるのだ。
 それを解説して行こうと思う。今回はまずその宣言である。次回以降に乞うご期待。

世の流れをつかみ流れに逆らうな

2023-01-31

 久しぶりの投稿である。昨年は戦意を喪失し、孫子兵法の出番も減ってしまったからだ。孫子兵法家がそんなことではいけない・・・と思い直して、今、このブログを書いている。
なぜ戦意を喪失してしまったのか。それは、2022年1月から施行される改正電帳法のために全兵力を投入して電帳法対応の武器を強化したのに、2021年の年末ギリギリになって宥恕措置なるものが発動され、2年間の先送りとなったからだ。
2021年はほぼ丸一年、電帳法対応に我が社の開発力を投入した。本来経理業務は我が社のコンサルティングの範疇ではないし、会計システムを売りたいわけでもないのだから電帳法がどうなろうと無視していても良かった。だが、あまりにも多くの企業が電帳法の改正内容を理解していないし、準備などまったくと言って良いほどできていなかった。「こんな状況で大丈夫なのか」「多くの企業が困ってしまうのではないか」と真面目に心配したのがいけなかった。
 ついつい、NI Collabo 360の経費精算機能支払管理機能を大幅バージョンアップして電帳法の要件に対応させ、電子保存のための電帳法ストレージというオプションも用意した。法対応の要件が不明瞭だったから、国税庁に何度も問い合わせ、確認しながら、急ピッチで開発を進めたわけだ。特に秋頃からは残り時間が少なくなって、社員にも無理をさせてしまった。月額360円(税込)のNI Collabo 360に、標準機能で電帳法対応させるのに、だ。さすがにストレージが別途必要になるのでオプションはつけたが、基本機能は360円に込み込みである。頑張って機能強化しても、単価が上がるわけでもない。それでも、このままでは2022年1月施行に多くの企業が間に合わないという使命感と危機感で大急ぎで開発を進めたわけだ。啓蒙のためのセミナーもやった。毎回満員御礼だった。この時点でもまだ電帳法についての理解ができていない企業が多かったからだろう。
 だが、12月も10日ごろになり、年内残りわずかとなった時点で、政府税制調査会の税制改正大綱が出て2年間先送り・・・・・・・・・・・・・。国税庁様のご意向に沿って頑張って来たことは水の泡と消えた。
 案の定、年が明け2022年になったら、多くの企業は「2年間の猶予があるんだからまだやらなくていいでしょ」というモードに入ってしまった。世のため人のために良かれと思って、必死に頑張ったのに水の泡。これでやる気を維持しろという方が無理な話だ。ということで、戦意喪失。もう好きにしてくれ状態。そうして2022年が過ぎようとしていた昨年12月。また税制改正大綱が出て、さらに電帳法の要件変更あり。ついでにインボイス制度も要件緩和。
 毎年毎年、ギリギリになって言うことが変わるのだ。会計系のシステムなどを作っている企業の皆さんに敬意を表したい。「よくやっていますね」と。まぁ彼らは慣れたもので、どうせ変更があるだろうと思ってやっているのかな。。。。孫子兵法家が真面目に考え過ぎていたのがいけなかったのだろう。地を知り、天を知ることができていなかったと大いに反省した。
 孫子は、

『彼を知り己を知らば、勝、乃ち殆うからず。地を知り天を知らば、勝、乃ち全うす可しと。』

 敵の状況や動きを知り、自軍の実態を把握していれば、勝利に揺るぎがない。その上に、地理や地形、土地の風土などの影響を知り、天界の運行や気象条件が軍事に与える影響を知っていれば、勝利を完全なものにできる、と教えてくれていたのに。
 他の電帳法対応システムと自社との比較にばかり気を取られ、「これなら絶対に勝てる」と思っていたのだが、それだけでは万全ではなかった。税法、税制という土地をよく理解していなかった。政府税調がこんなギリギリに大幅な変更をするなんて知らなかった。国税庁が言っていることをころころ変えることを知らなかった。そして、世の流れも読み切れていなかった。多くの人や企業は、「こんなギリギリになって変更するとは何事か、これまで準備して来たことが無駄になるじゃないか」と怒るのではなく、「先延ばしにしてくれてありがとう。まだ準備してなかったからね」と喜んでいた・・・。政府与党が頑張って国民の皆さんをお救いしましたよ~、ギリギリの攻防だったから年末ギリギリになったけどね~、ということだろう。必死に頑張って期限に間に合わせようとして馬鹿を見た。
 さて、そうしたことで迎えた2023年は、10月にインボイス制度がスタートし、12月末で電帳法の宥恕措置が終了する。いよいよなのか、またギリギリで肩透かしを食らうのか、よく分からないが、世の流れをつかみその流れに逆らわないようにしたいと思う。
 私は、インボイスがあろうとなかろうと、電帳法がどうなろうと、企業のデジタル化は進めるべきであり、その前提としてペーパーレス化は必須だと考えているので、NI Collabo 360はインボイス制度にも対応させたし、AI-OCR機能も強化した。これはデジタル化、DXという世の流れである。税金や国税庁のために経営をするのではなく、自社の生産性を上げ、より多くの価値を社会に提供するために経営をしようではないか。そのために孫子兵法家も頑張っていく所存である。

敵を侮ってはならない

2022-08-16

 ビジネスでも戦争でも同じだろうが、つい自社びいき、自国びいきで、「うちの会社があんな会社に負けるわけがない」「我が国があの国に負けるはずがない」などと過信と勢いで敵を軽く見がちなことがある。その方が威勢が良く、味方を鼓舞するには適当であったりもする。リーダーが戦う前から「いや、敵は強いぞ、こちらは負けそうだぞ」と部下に言っているようでは、わざわざ戦意喪失させるようなものだ。
 また、実際に自社の方が強くて大きいというケースもある。売上も社員数もこちらが優位だとなったら、それこそ「あんな会社に負けるはずがない」と考えておかしくないだろう。だが、孫子は、それでも決して敵を侮ってはならないと説いている。

『兵は多きを益ありとするに非ざるなり。惟だ武進すること無く、力を併せて敵を料らば、以て人を取るに足らんのみ。夫れ惟だ慮り無くして敵を易る者は、必ず人に擒にせらる。』

 孫子は、戦争においては、兵員が多ければ良いというものではないと断言している。彼我の戦力比較をシビアに行い、勝てない戦はしてはならないというのが孫子の基本であるが、ここでは兵力が勝っていればいいというものではないと説いているのだ。兵力を過信して猛進するようなことをしないのは当然だが、戦力を集中させ、敵情を読んで戦えば、仮に兵力が小さくても敵を屈服させるに充分であると言うのだ。そして、そもそも彼我の戦力分析もせずよく考えもしないで敵を侮り軽はずみに動くようでは、敵の捕虜にされるのが落ちであると念押しもしている。
 敵に対して怖気づいたり、とても勝てそうにないからと戦うことを諦めてしまうようなことでは、国王、将軍、リーダーは務まらないが、虚勢を張らず、常に謙虚に客観的な兵力分析を行い、戦略を練って、ここぞというところに戦力を集中させて戦えば、より強大な敵にも勝てるというのだから、弱小企業にも希望がある。
 「あんな会社、大したことないな」と高を括っていた新興企業が、あれよあれよという間に自社を追い越して成長して行ったということはないだろうか。私はある(笑)。孫子兵法家なのに、ある・・・。という反省を込めて、改めてこの節をお伝えしておく。孫子兵法、行軍篇の一節である。
 決して、敵を侮らないようにしよう。

情報やデータを活かさないのは不仁

2022-02-01

 新型コロナウイルスによるパンデミックが起こってからもう丸2年が過ぎているのに、相変わらず、人流抑制、外出自粛、接触回避を唱え、飲食店の営業を制限し続けているのは、いかがなものかと思う。このブログでもコロナ禍について何度か取り上げて来たが、最初は未知のウイルスが出現して、とりあえず接触を避ける、経済を止めてでも感染拡大を防ぐという対応も仕方なかっただろう。しかし、この2年間、世界中で知見が溜まり、治験が進み、データが集まり、症例が報告されて来たはずだ。「これさえ打てば日常に戻れる」と太鼓判を押していたワクチン接種も進んだではないか。感染拡大の波もすでに第6波だ。ウイルスは変異によって感染力が上がっても弱毒化していることは明らかだし、過去5回の波からいろいろと学んだこともあるだろう。
 にもかかわらず、結局やっているのは、営業自粛、テレワーク推奨、県外への移動制限・・・。そして、それに伴う巨額の補償。毎度、同じことの繰り返し・・・。
 国民を守るためにと言いながら、経済活動にダメージを与えつつ、膨大な支出を続けて、本当に国民のためになるのだろうか。甚だ疑問である。
 孫子は、戦争における膨大な出費と国民の疲弊に対してリーダーがどう向き合うべきかを説いている。

『孫子曰く、凡そ師を興すこと十万、師を出だすこと千里なれば、百姓の費、公家の奉、日に千金を費やし、内外騒動して、道路に怠れ、事を操るを得ざる者、七十万家。相守ること数年、以て一日の勝を争う。而るに爵禄百金を愛みて、敵の情を知らざる者は、不仁の至りなり。民の将に非ざるなり。主の佐に非ざるなり。勝の主に非ざるなり。』

 孫子が言うには、およそ10万の兵を集め、千里もの距離を遠征させるとなれば、民衆の出費や国による戦費は、一日にして千金をも費やすほどになり、官民挙げての騒ぎとなって、補給路の確保と使役に消耗し、農事に専念できない家が七十万戸にも達する。こうした中で数年にも及ぶ持久戦によって戦費を浪費しながら、勝敗を決する最後の一日に備えることがある。(数年にも及ぶ戦争準備が、たった一日の決戦によって成否を分ける)にもかかわらず、間諜に褒賞や地位を与えることを惜しんで、敵の動きをつかもうとしない者は、兵士や人民に対する思いやりに欠けており、リーダー失格だと言うのだ。そんなことではとても人民を率いる将軍とは言えず、君主の補佐役とも言えず、勝利の主体者ともなり得ないぞ、と。
 ここで大切なことは、数年に及ぶ緊急事態による国民の苦労と多大な出費を止めるためには、情報やデータが必要だということだ。そのために間諜を使う。今のコロナ禍においては感染症の専門家や厚労省だと考えれば良いだろう。だが、この専門家が機能していない。2年間の知見が活かされていない。仮に専門家が正しい提言をしているなら、それを活かさないのはやはりリーダーの責任だ。適切な専門家を使い、正しい判断をしなければならない。それが出来なければ、国民や現場で戦う兵士に多大な犠牲を強いることになる。まさに今のコロナ禍だ。
 そんなことが2500年前にもあったのだろう。孫子は続けてこう言った。

『故に明主・賢将の動きて人に勝ち、成功の衆に出づる所以の者は先知なり。先知なる者は、鬼神に取る可からず。事に象る可からず。度に験す可からず。必ず人に取りて敵の情を知る者なり。』

 優れたリーダーが勝利を収めるのは、如何に早く正確な情報を掴むかという「先知」ができているからだと。それは、鬼神に頼ったりして実現できるものではなく、祈祷や過去の経験で知ることができるものでもなく、天体の動きや自然の法則によってつかむわけでもない。必ず人間が直接動いて情報をつかむことによってのみ獲得できるものだと、孫子は教えてくれている。
 祈ったり、お願いしたり、現場の頑張りや国民の忍耐に頼るのではなく、プロを使って、正しい情報やデータを掴むべきである。リーダーは、それを活かして合理的に判断すべきなのであって、過去の踏襲や選挙のための人気取りや世間の空気に流されるようでは、結局そのツケを国民に払わせることになる。国民に対する「不仁の至り」である。
 そんなことは分かった上で、裏に狙いや陰謀があって敢えてやっているのかもしれないが、それはそれでまた「不仁の至り」だろう。データに基づかない情緒的な判断や人の恐怖心に訴える煽り誘導は、そろそろ終わりにしていただきたい。

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